【森鷗外『澀江抽斎』に登場する円朝】もりおうがいしぶえちゅうさいにとうじょうするえんちょう 落語 あらすじ


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森鷗外『澀江抽斎』の「その百十三」に以下のようなくだりがありました。かなり終わりのほうです。

或日又五百と保とが寄席に往った。心打は円朝であったが、話の本題に入る前に、かう云ふ事を言った。「此頃緑町では、御大家のお嬢様がお砂糖屋をお始になって、殊の外御繁昌だと申すことでございます。時節柄結構なお思ひ立で、誰もさうありたい事と存じます」と云った。話の中に所謂心学を説いた円朝の面目が窺がはれる。五百は聴いて感慨に堪へなかったさうである。

 明治20年頃のこと。澀江抽斎の四女陸(くが)が稲葉氏の援助で本所緑町に砂糖店を開きました。評判を聞きつけた円朝は、さっそく高座にちょっとした話題としてマクラにかけたようです。維新後、士族が生活自立に苦労しているのを見るにつけ、このように「がんばってます」といった情報を伝えたかったのでしょう。文中の五百(いお)は保(たもつ)の母、保は陸の夫です。円朝はつねに世事の変化に敏感だったといえます。

ただ、澀江陸はある事情で、円朝はじめ士族のご婦人方の応援にこたえられず、まもなく砂糖店を店じまいすることになってしまいました。残念です。


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