【竹の水仙】たけのすいせん 落語演目 あらすじ
【どんな?】
三島に投宿して酒びたりの左甚五郎は、宿の主人から追い立てを食らう。
甚五郎、中庭の竹を一本切って、竹造りの水仙に仕上げてみた。
翌朝、見事な花を咲かせた。竹なのに。これを長州公が百両でお買い上げ。
旅立つ甚五郎に、主人は「もう少しご逗留になったら」。
講談の「甚語郎もの」を借用した一席。オチはありません。
【あらすじ】
天下の名工として名高い、左甚五郎。
江戸へ下る途中、名前を隠して、三島宿の大松屋佐平という旅籠に宿をとった。
ところが、朝から酒を飲んで管をまいているだけで、宿代も払おうとしない。
たまりかねた主人に追い立てを食らう。
甚五郎、平然としたもので、ある日、中庭から手頃な大きさの竹を一本切ってくると、それから数日、自分の部屋にこもる。
心配した佐平がようすを見にいくと、なんと、見事な竹造りの水仙が仕上がっていた。
たまげた佐平に、甚五郎は言い渡した。
「この水仙は昼三度夜三度、昼夜六たび水を替えると翌朝不思議があらわれるが、その噂を聞いて買い求めたいと言う者が現れたら、町人なら五十両、侍なら百両、びた一文負けてはならないぞ」
これはただ者ではないと、佐平が感嘆。
なんとその翌朝。
水仙の蕾が開いたと思うと、たちまち見事な花を咲かせたから、一同仰天。
そこへ、たまたま長州公がご到着になった。
このことをお聞きになると、ぜひ見たいとのご所望。
見るなり、長州公は言った。
「このような見事なものを作れるのは、天下に左甚五郎しかおるまい」
ただちに、百両でお買い上げになった。
甚五郎、また平然とひとこと。
「毛利公か。あと百両ふっかけてもよかったな」
甚五郎がいよいよ出発という時。
甚五郎は半金の五十両を宿に渡したので、今まで追い立てを食らわしていた佐平はゲンキンなもの。
「もう少しご逗留になったら」
江戸に上がった甚五郎は、上野寛永寺の昇り龍という後世に残る名作を残すなど、いよいよ名人の名をほしいままにしたという、「甚五郎伝説」の一説。
【しりたい】
小さんの人情噺
五代目柳家小さん(小林盛夫、1915-2002)の十八番で、小さんのオチのない人情噺は珍しいものです。
古い速記は残されていません。
オムニバスとして、この後、江戸でのエピソードを題材にした「三井の大黒」につなげる場合もあります。
桂歌丸(椎名巌、1936-2018)がやっていました。
柳家喬太郎なども演じ、若手でも手掛ける者が増えています。あまり受ける噺とも思われませんが。
講釈ダネの名工譚
世話講談(講釈)「左甚五郎」シリーズの一節を落語化したものとみられます。
「黄金の大黒」「鼠」など、落語の「甚五郎もの」はいずれも講釈ダネです。左甚五郎については「黄金の大黒」をお読みください。
噺の中で甚五郎が作る「竹の水仙」は、実際は京で彫り、朝廷に献上してお褒めを賜ったという説があるんだそうです。
三代目桂三木助(小林七郎、1902-61)は、「鼠」の中でそう説明していました。
【語の読みと注】
旅籠 はたご:宿屋、旅館