「落語ディーパー!」を見る


成城石井.com  ことば 噺家  演目 志ん生 円朝迷宮 千字寄席

「落語ディーパー!~東出・一之輔の噺のはなし~」は、落語マニアの俳優、東出昌大の名ゼリフ「これを知らなきゃもったいない」で始まる落語番組。Eテレで。

彼と一之輔、さらに若手落語家たちが、名人上手の映像や音源から一つのネタについて語り合う、芸談中心で構成されている、一風変わったプログラムです。管見ながら、入門、初級コースをうろうろしている落語ファンのために、Eテレが放った「落語中級ファン促成番組」といえる福音です。

これまでの放送は不定期で気まぐれなのでゲリラっぽくて。これからの放送時間もよくわかりません。2019年は「いだてん」のからみで、あるいは、円朝生誕180年もからんで、ちょっと変わったスペシャルもありました。これまでの放送分は以下の通りです。

2017年
7月31日(月) 目黒のさんま
8月7日(月) あたま山 柳家花緑
8月21日(月) お菊の皿
8月28日(月) 大工調べ
2018年
5月6日(日) 地獄八景亡者戯 五代目桂米団治 上方SP
9月3日(月) 明烏
9月10日(月) 鼠穴
9月17日(月) 粗忽長屋
9月24日(月) 居残り佐平次
2019年
1月2日(水) 春風亭昇太 新作SP 吉笑も
3月4日(月) 長屋の花見
3月11日(月) 真田小僧
3月25日(月) 風呂敷 古今亭菊之丞 志ん生SP
3月26日(火) 火焔太鼓 古今亭菊之丞 志ん生SP
9月2日(月) 牡丹燈籠お札さがし 柳家喬太郎 円朝SP
9月9日(月) 死神 柳家喬太郎 円朝SP
9月16日(月) 船徳 
9月23日(月) 時そば
9月30日(月) わさび、小痴楽真打ち昇進SP(古木優)


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第617回TBS落語研究会 寸評 2019年11月26日


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一目上がり 入船亭小辰 ★★

マクラの間、早口の言葉が粒立たず聞き取れない、大家と隠居は同一人物なのか、など、アラを言えば切りがない。隠居が説明するくだり、ちゃんとしぐさ、目の動きをともなっているのはよい。マクラの、頭がタイムスリップした水道調査員は、まったく老人になっていないが、「え? どっちの三平だ」はけっこうウケた。

駒長 蜃気楼龍玉 ★★★

円朝作品に意欲的に取り組み、師匠(雲助)譲りで語り口にもどっしり貫目が付いてきた。おしむらくは言葉に重複とくどさが目立つ。女房が「丈八」と直前に言っているのに亭主が「深川から丈八という男が」と繰り返したり、「損料」で足りるのを「損料代」と重ねたり。だからか、夫婦の会話を含む前半がダレる。立板に水のベランメエは貴重品だけに、そのへんの整理を切に望みたい。

掛け取り 柳亭市馬 ★★★★★

本日の白眉。この人、噺家には珍しく、地声がよく響くバリトンなので、ネタによってはそれがかえって薄味な印象を与え、実力の割に損をする場合があるのだが、こうした音曲を聴かせる噺になると、まず当代の独壇場。特に義太夫は、変に上方風にしゃがれず、朗々とした江戸前でけっこうなもの。日頃きちんと稽古していなければこうは行かないだろう。全体の演出では、最後に芝居ごっこの掛け合いを入れる円生の型。「掛け取り」なので、万才のくだりはない。けんかで逆に証文を入れさせる抱腹絶倒なくすぐりも円生通りだが、後味の悪さを少しも感じさせず、洒落気分が横溢。シメに古風な歌舞伎の味を堪能させて、いや、バカンマ。ごちそうさまでげした。

将棋の殿さま 三笑亭夢丸 ★★★

殿さまのパワハラぶりがエスカレートするにつれ、要所に新規の過激なくすぐりを交え、楽しめた。「切腹申し渡す」と言葉で言う代わりに、その都度、電光石火のいぐさで示すのはいい工夫に見えた。言葉遣いからして武士が武士にならず、昭和初期の映画に見る、ワンマン社長の前で平蜘蛛のようにはいつくばる社畜リーマンのさまなのは奇異。言葉とがめどこ吹く風の爆笑路線を突っ走るのだろうが、それでも円蔵の域に達するには、もう少したたみかけるリズム感を身に着けてほしいように思った。

火事息子 五街道雲助 ★★★★★

自他ともに任ずる十八番ゆえ、もはやなんの茶々も入れどころなし。しっとりと落ち着いた語り口、風貌まで、近年、師匠(馬生)そっくりになってきた感。古希を超えてもはや円熟の至芸に見えた。だんなの描写は優れ、目塗りのやり方を滾々と言って聞かせるくだりは、確かにこの人物が小僧からたたき上げの苦労人と納得させられる。全体の運びとしては、後半の母親のすっとんきょうぶりで笑いを多く取ることにより、とかくお涙ちょうだいに陥りがちなこの噺に、すっきりとよりよいバランス感を与えている。

高田裕史


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第616回 TBS落語研究会  2019年10月25日 寸評


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2019年10月25日(金) 東京・国立小劇場 古木優

熊の皮 春風亭喜いち ★★

かけあいが平板。周りの客は寝ていた。二つ目なりたてだそうで、話し方には勢いがある。大いに可能性を感じた。噺を選べばよいのかも。登亭

田能久 入船亭扇辰 ★★★★★

マクラで客を引き込んでからは全編息もつかせない。流れる話柄に聴き酔えた。はずれのない噺ながら、客を最後までそらさないのも芸の内だろう。尾花

蒟蒻問答 三遊亭歌武蔵 ★★★★

「甲府い」でも驚いたが、どうしてこんなにうまいのだろう。しっかりした型で大いに見せてくれる。人物描写も自然。映像が湧き出た。のだや

天狗裁き 桂三木助 ★★

さすが小林家。かまない。高っ調子のスピード感ある流々とした話しぶりに酔いたかったが、人物がみんな同じ声帯で興醒め。立体感なくマンガ見てるよう。竹葉亭

たちきり 入船亭扇遊 ★★★★★

ぞくぞくするほど色っぽい。でも自然で。飽きない言葉の選び方に落語の芸の奥行きを感じた。大雨押して参じた甲斐あったというもの。つきじ宮川本廛


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第615回 TBS落語研究会  2019年9月27日 寸評


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2019年9月27日(金) 東京・国立小劇場 古木優

【RIZAP COOK】

普段の袴  古今亭志ん吉 ★★★

落ち着いている。「落語」になっている。おもざしは味気ないが、通る声で心地よい。上下の使い分けがどうも。工夫が必要。光るものを大いに感じた。竹葉亭

蛙茶番   春風亭柳朝  ★★

一本調子の通る声が新味。誰がなにを言っているのかがてんでわからない。寝る客続出。こんなんで十二年も張ってたのか。「落語」を聴かせてほしい。いづもや

こんな顔  桂文治    ★★★★★

短い噺だからえんえんとマクラが続く。これが絶妙。安定した笑いがお次を期待させる、よいテンポ。どう終わらすのか気になりつつも、気持ちのよい笑いを最後まで提供してくれた。のだや

野ざらし  古今亭文菊  ★★★★★

ふらがある。色気がある。面妖なしぐさがいい。落ち着いたいなせな語りぶりは役者じみてて小気味よい。人物の彫り込みもわかりやすい。ふとしたあわい、文菊ワールドだった。つきじ宮川本廛

猫の災難  橘家文蔵   ★★★★

畳にこぼれた酒をせこく飲み干すしぐさは絶妙。ささやくような話柄も色気が漂ってて悪くない。たまに都下のあんちゃんが操るような言葉遣いが。これは興醒め。喜代川


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らくごげいじゅつきょうかい【落語芸術協会】

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公益社団法人です。略称は「芸協」。

葉茶屋と水茶屋は異なります。葉茶屋はお茶を売る店。水茶屋はお茶を飲ませる店。その違いは大きいです。茶舗か飲み屋か、ですから。

山下敬太郎の実家は芝の葉茶屋でした。三遊亭金勝が経営する店。敬太郎は金勝の息子です。この息子、7歳で初高座に。天才少年落語家としてまたたく間に知られていきます。のちの柳家金語楼が、その人。

NHKがラジオ放送を始めた頃、席亭はラジオを嫌がりました。席亭に隷従する芸人たちはNHKには出ませんでした。

それが金語楼は率先して出演します。先見の明があったのですが、席亭からは総スカンを食らいます。芸の世界から締め出されるわけです。でも、金語楼の人気はすさまじく。

そこで、この人が活躍する場を確保するために、吉本興行と千葉博己(大正昭和期のフィクサー)が出資して作ったのが、日本芸術協会でした。昭和5年(1930)10月のこと。この名称は昭和52年(1977)まで続きます。当初は会長は六代目春風亭柳橋、副会長が初代柳家金語楼でスタート。実質的には金語楼人気におんぶにだっこだったのですが。

当の金語楼は、昭和17年(1942)に落語家を廃業し、喜劇俳優に転向してしまいます。

昭和59年(1984)、桂米丸が会長のとき、鈴本演芸場と決裂して、以来、芸術協会は鈴本には出ていません。

その頃の芸協は100人にも満たない団体でした。「うちには芸術が入ってる。あっちはない」なんて言って笑わせているつもりの落語家もいました。そうは言っても、10日交代の定席では、「芸協が当番なら行くの、やめよう」という客が出るほどの不入りでした。「古典の協会、新作の芸協」といわれて、本寸法の古典落語を聴きたければ、落協のほうがおもしろい、というのが常識だったのです。

今ではそんな頼りなさからも払拭されて、陣容も200人近く数えます。りっぱなものです。おしむらくは、鈴本で聴けないこと。その分、国立で多めに聴けますが。まあこれも、遠からぬ日解消されることでしょう。

2019年6月、春風亭昇太師が会長に就任しました。

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えどのまち【江戸の町】知っておきたい


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落語や時代劇に登場する江戸の町。そこに出てくることばを集めました。

■土地

江戸入府えどにゅうふ 天正18年(1590)8月1日、徳川家康が江戸城に入ったことをさす。=江戸入城 =江戸入国

御城おしろ 江戸城。江戸町人の日頃の呼称

御府内ごふない 江戸の正式名称

御用地ごようち 江戸幕府の土地

武家地ぶけち 江戸全体の69%

町地ちょうち 江戸全体の16%。町数まちすうは18世紀半ばで1678町

寺社地じしゃち 江戸全体の15%

ときかね 時刻を知らせる鐘。江戸城西ノ丸にあったものが、寛永3年(1626)に日本橋石町三丁目に移り、その後は12か所にも

■水運

江戸湊えどみなと 江戸城前の港。ここを中心に開かれた

河岸かし 町地の荷揚げ場

物揚ものあ 武家地の荷揚げ場

わたし 渡し船の発着する場所。渡船場とせんばとも

■屋敷

屋敷屋敷 家を建てることを許された土地

大名屋敷だいみょうやしき 諸国の大名が幕府から下賜された土地。明暦の大火(1657)以降には、上中下に分けて営むように

上屋敷かみやしき 藩主と家族が住む場所

中屋敷なかやしき 隠居した藩主が住む場所

下屋敷しもやしき 藩主の別荘。避難所や仮屋敷にも。四谷、駒込、下谷、本所などに多い

蔵屋敷くらやしき 湊や河岸にあって、年貢米や特産物を収納したり売ったりするための場所

大縄地おおなわち 大番以下の幕臣で同じ組に属する者にまとめて下賜された土地

上地あげち 幕府拝領地を返納や没収などで戻した土地

定火消屋敷じょうびけしやしき 幕府お抱えの火消しに任命された幕臣に下賜された土地。計10か所

■町地

ちょう 町地では「ちょう」。室町むろまちなどの古町こちょうは例外

まち 武家地では「まち」。番町ばんちょうなど江戸初期の町名には例外も

両側町りょうがわちょう 表通りを挟み、その両側でひとつの町となっているところ

片側町かたがわまち 町の片側だけでできた町。武家地によくあった

横町よこちょう 町地で表通りから横に入る道。幕府の許可制

横丁よこちょう 幕臣の宅地や寺町に入る道

新道じんみち 家屋ができた後にできた町地の道。幕府の許可制

小路こうじ 武家地の通りの呼称。横町に相応

たな 武家が拝領地を町人に貸して地代を取った土地。玄冶店げんやだな木原店きわらだななど。十軒店じっけんだなは例外

代地だいち 町の全部や一部が移転させられた土地

元、本、新もと、ほん、しん 町の丸ごと移転でできた町名。移転元は元や本が、移転先には新が冠された

門前町もんぜんちょう 寺社の前にできた町。寺社奉行支配(管轄)。町奉行所に権限がないため岡場所が発達

広小路ひろこうじ 町地の防火地帯、避難場所

火除明地ひよけあけち 武家地の防火地帯、避難場所。火除地ひよけちとも

■遊里

吉原よしわら 幕府公認の遊郭。初期は葭町に、明暦大火後は浅草田圃に

岡場所おかばしょ 非公認の遊里

四宿ししゅく 江戸の幹線道路に通じる宿場。品川(東海道)、新宿(甲州街道)、千住(奥州街道)、板橋(中山道)。飯盛女ましもりおんなや宿場女郎が黙認され岡場所としても発展


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これは便利かも!落語ツール

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■話芸の団体

落語協会 一般社団法人

落語芸術協会 公益社団法人

五代目円楽一門会

落語立川流 一般社団法人(2024年6月6日)

上方落語協会 公益社団法人

講談協会

■話芸をたのしめるところ

浅草演芸ホール 台東区 東京落語の定席

池袋演芸場 豊島区 東京落語の定席

上野鈴本演芸場 台東区 東京落語の定席

新宿末廣亭 新宿区 東京落語の定席

国立演芸場 千代田区 by日本芸術文化振興会 建て替え閉場 以下で代替開催

 紀尾井ホール 千代田区 by日本製鉄文化財団

 日本橋公会堂 by中央区

 内幸町ホール by千代田区

大演芸 国立系ぜんぶ入り

よみうり大手町ホール 千代田区 by読売新聞社 江戸東京落語まつり など

有楽町朝日ホール 中央区 by朝日新聞社 朝日名人会 など

永谷の演芸場 お江戸上野広小路亭 お江戸日本橋亭(休館中) お江戸両国亭 

横浜にぎわい座 横浜市中区 by横浜市芸術文化振興財団

大須演芸場 名古屋市中区

天満天神繁盛亭 大阪市北区 上方落語の定席

動楽亭 大阪市西成区 by米朝事務所

神戸新開地 喜楽館 神戸市兵庫区

花座 仙台市青葉区 毎月10日間は落語芸術協会の定席「魅知国仙台寄席」

■まだまだある!話芸をたのしめるところ 

アルテ

オフィス10

梶原いろは亭

亀戸梅屋敷藤の間

クリエイティブワンズ

彩の国ビジュアルプラザ 埼玉県川口市西川口

雑司谷はいどん亭

道楽亭 新宿区新宿三丁目

東洋館

ばばん場

ぼんが 墨田区 曳舟・向じま墨亭

木馬亭

湯河原温泉観光協会

瑜伽山真福寺 世田谷区用賀

落語居酒屋こまむ亭 横浜市 相鉄線上星川駅南口

■紙情報

東京かわら版 東京落語中心 月刊

よせぴっ 上方落語中心 フリーペーパー

歴史と人物 日本史中心 by中央公論新社

和樂 日本の伝統文化を紹介 by小学館

■オンライン情報

あかね噺 by少年ジャンプ(集英社)

浅草お茶の間寄席 by千葉テレビ

演芸おもしろ帖 長井好弘 by読売新聞

産経らくご by産経新聞

儒烏風亭らでん hololiveDEV_ISのバーチャルYouTuber ReGLOSSメンバー

新にっかん飛切落語会 byにっかんスポーツ

TBS落語研究会 第五次落語研究会 by東京放送(TBS)

日本の話芸 byNHK

文化デジタルライブラリー by文化庁

よせなび 寄席と落語について

落語散歩 歩く、歩く

噺-HANASHI- 落語系情報サイト  首都圏中心 byハナシ・ドット・ジェーピー

落語と吉原そして小説、時々ぼやき 四代目円喬+自画自賛系 by立花家蛇足

落語の舞台を歩く 続編は落語ばなし こちらもよく歩く by吟醸の館

らくご報知 独自の目線 by報知新聞

バズ部 なにかと役立つ byルーシー

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まつのやせんつる【松乃家扇鶴】

音曲師の松乃家扇鶴師が、お亡くなりになりました。81歳。本名・平野英治。6月20日、パーキンソン病で。告別式は近親者で営むとのこと。喪主は長女、平野乃婦子のぶこさん。落語芸術協会に所属し、寄席で都々逸や新内流しなど、三味線の弾き歌いを、とりわけ粋で艶っぽい芸風を披露しました。

らくごのえんもくはいくつあるのか【落語の演目はいくつあるのか】知っておきたい

  成城石井.com  ことば 噺家 演目  千字寄席

落語の演目数はいくつあるのか。

二千。

難しいですね。

東大落語会の『増補 落語事典』(青蛙房、1969年)には八百超席でしたかね。

一般には五百ほどある、といわれていますが、誰も正確な数字を出せません。

千字寄席は五百余席。これだけ。

志ん生の音源は百二十五ほどありましたかね。意外に多いんです。

でも、ホントにすごいのは二十ほどでしょう。

その二十の中に入るかどうかは知りませんが、「後生鰻」なんか最高ですね。

あとは、なんだかよくわかりません。でも、それはそれでおもしろかったりして。

文楽が六十八でしたっけ。

高名になってからは三十席を死守してました。少ない。

でも、どれもいつでもうならせられる珠玉の演目。これはこれですごい。

磨き上げた芸です。とびきりおいしい中華料理店(たとえば六本木の中国飯店)はメニューの数がそんなにありません。

でも、その中のどれを頼んでもおいしい。文楽の芸はそんなかんじです。

志ん生と文楽ではスタンスが、まったく違ってました。

円生は三百席。どうでもよいですか。

スタジオ録音は資料にはなりこそすれ、あれは聴いててあんまりおもしろくありません。

お客を前にして作った料理と試食の違い、みたいなもんでしょうかね。

落語はライブ感がどうしても必須です。芸能なんですね。客が必要なんです。

円朝は四十二席こさえてます。

これは長講も入れての数です。しかも、やってるばかりか、つくってるわけです、この人の場合は。驚きます。

晩年は、支離滅裂なのもあるし、はりまぜみたいなのもあるし。

円朝作の名で世に出ていながら、そのじつ、条野採菊がつくったものだったり、河竹黙阿弥からもらったものだったりで。

「心中時雨傘」はあやしい、なんていわれてますね。

これはもう、近代における作り手と個人のありようと関係してきますね。ややこしいから、ここではやめときます。

まあ、落語は六十も知ってたら、周りは仰天。マニアの域です。

カクテルも六十くらい知ってれば、通なんだそうです。

あれは毎晩、世界のどこかで生まれてるんですが、生き残れるものはほんの一握り。

まあ、落語は、みなさん、そんなに知らない。せいぜい十二くらいでしょうか。

そんなら、千字寄席を読み込んでいただければ、落語通になれます。そうとうな。

そこらへんの落語評論家があずかり知らないことも記してたりしてますしね。

ほかでは語られてない説も、たまには記してあります。

こんなところがけっこうおもしろい。

どうぞ、ご贔屓に。

古木優

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絶品です。



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えどのさいじき【江戸の歳時記】知っておきたい

江戸の歳時記、これだけは知っておきたい年中行事です。

1月1日
初日の出。神田、湯島、愛宕山など

1月2日
商人は初荷、初売り。職人は細工初め。武家は馬乗り初め

1月11日
商人は蔵開き 

1月24~25日
亀戸で鷽替え神事。梅見も兼ねる

2月最初の午の日
初午祭。王子などの稲荷で

2月25~3月2日
雛人形市。日本橋十軒店、尾張町、浅草茅町、芝神明前など

3月3日
雛祭

3月中
花見。上野、飛鳥山など
潮干狩り。品川、洲崎など

4月8日
灌仏会

4月25~5月4日
甲人形市。日本橋十軒店など

4月中
蚊帳売り、団扇売りなどの物売りの姿

5月5日
端午の節句

5月28日
両国川開き

6月15日
山王祭。将軍上覧の天下祭

7月7日
七夕

7月6~8日
朝顔市。入谷など

7月9~10日
ほおずき市。浅草など。観音信仰

7月10日
四万六千日。観音信仰

7月12~13日
草市。盂蘭盆会用。深川櫓下、根津、両国広小路、下谷広小路、浅草雷門前など

7月13~16日
盂蘭盆会。13日には迎え火、16日には送り火

7月26日
二十六夜待。月を拝む。品川、高輪、湯島など

8月14~15日
富岡八幡祭。のぼり祭とも

9月11~21日
芝神明祭。長いので神明のだらだら祭とも
生姜市。芝神明祭で谷中生姜、甘酒、千木箱(檜製の小判型絵箱)を売る

9月15日
神田明神祭。天下祭。山王祭と隔年で。36の山車

10月19日
べったら市。日本橋大伝馬町。翌日の恵比寿講のための品を売る。くされ市とも

10月20日
恵比寿講

11月1日
顔見世狂言。江戸三座が新年の役者の顔ぶれを披露。芝居正月とも

11月酉の日
酉の市。鷲神社の祭礼。一の酉を初酉と重視。熊手を売る

11月15日
七五三の祝

12月13日
煤払い

12月末
歳の市。深川八幡宮、芝神明、芝愛宕下など
羽子板市。浅草の歳の市

しょうわげんろくらくごしんじゅう【昭和元禄落語心中】知っておきたい

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落語と「死」

雲田はるこによる漫画作品です。

「ITAN」(講談社)2010年零号(創刊号)~16年32号に連載されていました。

第17回2013年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第38回(2014年度)講談社漫画賞一般部門、2017年第21回手塚治虫文化賞新生賞をそれぞれ受賞しています。

落語漫画の傑作ですね。

テレビアニメは、第1期が2016年1月~3月に放送され、第2期が17年1月~3月に放送されました。

両期とも主題歌は椎名林檎の作品でした。第1期は「薄ら氷心中」第2期は「今際の死神」。

ともに、原作の真意をたっぷり汲み取った楽曲です。

楽しめます。

2018年にはNHKでテレビドラマ化されました。10月12日~12月14日、NHK総合「ドラマ10」。

全10回。ドラマに登場した落語の演目を列挙してみましょう。

第1回
死神
たちきり
野ざらし
出来心
鰍沢
第2回
寿限無
たらちね
品川心中
黄金餅
あくび指南
第3回
夢金
第4回
居残り佐平次
死神
第5回
子別れ
野ざらし
第6回
あくび指南
野ざらし
明烏
芝浜
第7回
野ざらし
第8回
錦の袈裟
大工調べ
あくび指南
芝浜
寿限無
第9回
出来心
錦の袈裟
品川心中
たちきり
最終回
明烏
芝浜
死神
寿限無
野ざらし

ざっと見てわかる通り、全10回放送のうち 「野ざらし」が 5回も登場しています。

これは、有楽亭助六(山崎育三郎)のおはこということになっているからです。

そればかりではないでしょう。

ドラマの進行と「野ざらし」が、暗示的に絡み合っているように見えます。

それと 「死神」が3回。

この物語の通奏低音として「死」が見え隠れしています。

落語と「死」。笑いを求める落語になんで「死」なのか。

不思議に思えるかもしれませんが、三遊亭円朝の作品にひとつにでも触れれば氷解します。

落語と「死」。この取り合わせ、悪くない。

落語の笑いと「死」はいつも背中合わせでいるのです。

背中合わせ。

そう、これは九鬼周造に言わせれば、「いき」のサンプルなのだそうです。

男と女が仲良く手をつないでいるのは「いき」ではないのですね。

背中合わせの男女こそ「いき」とされるのです。

落語は「いき」でなくてはいけません。

「昭和元禄落語心中」が落語と「死」の背中合わせというのなら、これはもうりっぱに「いき」を描いていることになる、と言えるのではないでしょうか。

「いき」には「はかなさ」「むなしさ」が漂うもの。

あやういもんです。

一見はなやかに見えるものの奥には、じつは「死=無」を暗示させる闇の奥が潜んでいるようなのですね。

そんなことを無性に感じさせてくれる物語が「昭和元禄落語心中」なのだな、と私は思っています。

いくつか生まれた落語がらみの創作の中でも、とびきりの傑作です。

古木優

  成城石井.com  ことば 演目  千字寄席

おついでに

2022年10月、フジテレビ系列で『エルピス-希望、あるいは災い-』というドラマが放送されました。

演出は大根仁、脚本は渡辺あや、プロデユーサーは佐野亜裕美(カンテレ)。主演は長澤まさみ、真栄田郷敦、鈴木亮平。

物語は、まさにパンドラの箱をひっくり返したようなものすごさです。

ある地方都市の冤罪事件を通して、家出少女と板金工、刑事と警察庁幹部、司法と死刑囚、大物政治家と取り巻き記者、テレビ局と出入り業者、報道とバラエティー、制作部内の格差、正社員とタレント、学校歴、いじめ、自殺、勝ち組と負け組、成金弁護士と世田谷マダム、家庭内の虐待、過保護母子、局アナ路チュー……と、現代社会がいつも葬ろうとするちぐはぐな闇を丁寧に暴き照らし、三人三様の死角に照射しようとします。

「どこの世界にもある」

そう言ってしまえば、ますますわからなくなるだけの蟻地獄社会。

無頓着で無知な無防備圏が、われわれの棲息舞台なのです。

それはともかく。

毎回のサブタイトルが意味深です。

第1話(10月24日放送) 冤罪とバラエティ  8.0%
第2話(10月31日放送) 女子アナと死刑囚 7.3%
第3話(11月7日放送) 披露宴と墓参り 6.3%
第4話(11月14日放送) 視聴率と再審請求 6.9%
第5話(11月21日放送) 流星群とダイアモンド 5.8%

「〇〇と〇〇」のつかみ方は、『昭和元禄落語心中』のそれに似ています。

『昭和元禄落語心中』も『エルピス-希望、あるいは災い-』も、通奏低音として「死」のイメージが漂い響いているのです。

『昭和元禄落語心中』は、はなやかでにぎやかな世界の裏に潜む、影法師のような、あやういうたかたを描こうとしていたみたいでした。

人はなぜ笑うのでしょうか。

古木優

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