【安産】あんざん 落語演目 あらすじ



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【どんな?】

ここでは熊五郎が、とんでもない粗忽者として登場する、短いおはなしです。

【あらすじ】

粗忽者の熊五郎。

湯に行ったら尻がかゆいのでかこうとして、隣の金さんの尻をつねってけんかになり、金さんがとっくに出てしまっているのに、まだあやまっていたというほど。

それが、かみさんの臨月ともなると、ふだんにも増してソワソワ落ちつかない。

いよいよ産気づき、八十歳の産婆を頼んだが、産婆は潮時を心得ていて、なかなかやってこないのにじれて、湯を沸かすのに薪の代わりにゴボウをくべてしまった。

やっと婆さんが到着。

ご利益があるからと、塩釜さまの安産のお札、梅の宮さまのお砂、水天宮さまの戌の日戌の月戌の日のお札から、どういうわけか寄席の半札まで、やたらと札ばかり並べる。

当人も、ふだんは神さまに手のひとつも合わせたことがないのに、この時ばかりは
「南無天照皇太神宮さま、南無塩釜大明神、水天宮さま、粂野平内濡仏、地蔵菩薩観音さま、カカアが安産しましたら、お礼に金無垢の鳥居一本ずつ納めます」

これを聞いて、うなっているはずのかみさんが驚いた。

「この貧乏所帯で額一つ上げられないのに」
と文句を言うと
「心配するねえ。神さまだって金無垢の鳥居と聞きゃあ、面食らってご利益を授けらあ。出るものが出ちまえば、後は尻食らえ観音だ」

その甲斐あってか、赤ん坊が無事誕生。

「お喜びなさい。男の子ですよ」
「そいつは豪儀だ。ひとつ歩かしてみせてくれ」

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【しりたい】

塩釜大明神

宮城県塩釜市の塩竃神社。

航海安全・安産の神です。

梅の宮さま

京都市右京区の梅宮神社。安産の神。お砂はお土砂のことで、加持祈祷で清めた砂。

生命を蘇らせる力があるとされます。

久米平内濡れ仏

三代将軍家光の頃、首斬り役人を務めていた(一説には辻斬り)久米(粂野)平内(?-1683)は、のち、鈴木正三(1579-1655)に師事して仏道に入りました。

罪業障滅のため、往来に石像を立て、諸人に踏みつけてもらいたいと遺言したので、始めは浅草駒形堂前、のちに浅草寺境内に像を立て、平内堂としました。

踏みつけと文(恋文)付けを掛け、文を奉納して縁結びを祈願する男女が後を絶たなかったとか。

濡れ仏は、そのそばにある雨ざらしの観音、勢至両菩薩像です。

久米平内は兵藤長守という名の武道者で、肥後(熊本県)の生まれながら、三河挙母藩で武道師範をつとめ、そのとに、赤坂の道場をもち、どうしたことか、千人斬りの願掛けで辻斬りに及んだ輩でした。

明治大正期に大阪から発信された立川文庫に登場して人気を博しました。

その前には、曲亭馬琴が『巷談坡堤庵』という敵討ちの小説に登場させています。

大正昭和の戦前期には9本の映画にもなり、三代目小金井蘆洲も講談『粂平内』(大正9年=1918、博文館)を残しています。

三代目蘆洲は志ん生が5か月ほど蘆風の名で門下にいたことでも知られています。

尻食らえ観音

困った時は観音を頼み、窮地を脱すると「尻食らえ」と恩を仇で返す意味の俗語。

ふつう「尻を食らえ!」と言う場合は、「糞食らえ」と同義で、痛烈な罵言、捨てゼリフです。

司馬遼太郎が『週刊読売』に小説「尻啖え孫市」を連載すると、このスラングがいっときはやったことがありました。

昭和38年(1963)7月-39年(1964)7月の頃のことです。

一音違って「しりくらい観音」となると、陰間の尻、もしくはお女郎の尻の意味となります。

日蓮大士道徳話

三遊亭円朝の晩年の作品に「日蓮大士道徳話」というのがあります。

明治29年(1896)10月、日蓮宗の週刊新聞に7回で連載したもの。

9月には麻布鬼子母神(日蓮宗の道場でした)の磯村松太郎行者の導きでで日蓮宗の信者となったことから、日蓮宗側が宣伝の意味も込めて、円朝による日蓮上人の一代記を語ってもらおう、という企画だったようです。

当然、長尺の大作の予定だったのでしょうが、結局は7回で終わってしまいました。なんとも消化不良です。

岩波版「円朝全集」第11巻に初めて収録されました。

話は日蓮の遠祖、中臣鎌足に始まって、浜松井伊谷の貫名氏となり、鎌倉期には安房に移り住み、貫名次郎重忠が土地の大野氏の娘梅菊との間には子を成し、それが長じて日蓮となった、という流れです。

第7回では誕生で、その後は残念ながら紙資料がありません。

その誕生場面には「安産」に似た描写があります

円朝は落語的な滑稽描写にしていました。

【語の読みと注】
粗忽者 そこつもの
久米平内 くめのへいない
巷談坡堤庵 こうだんつつみのいほ
挙母藩 ころもはん



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