【どんな?】
円朝噺。「鰍沢」の後日談のつもり。お題は、花火、後家、峠茶屋だったそうです。
【あらすじ】
新潟の荒物屋、加賀屋の息子ながら、江戸で育った宗次郎。
年の頃は二十七、八。
宗次郎の相手はお花。
年の頃、見たところは二十三、四だが、じつは二十六、七の中年増で「八百八後家」のあだ名をもつ。
深い仲となって身の詰まり、新潟から信濃の善光寺へ駆け落ち。
途中、越後と信濃の境にある明神峠で、お花が癪を起こした。
宗次郎は、駕籠に忘れてきた荷物を取り戻そうと、峠の茶屋の亭主から火縄をもらって駕籠舁きを追う。
茶屋の亭主、年の頃は三十四、五。
こいつが火縄を目印に鉄砲で狙い撃ち、宗次郎は落命。
亭主の正体は、「鰍沢」の伝三郎で、お花もじつは、月の輪のお熊だった。
二人は同じ手口で七人の男をえじきにしていた。
その夜、遅く。
宗次郎の亡霊が出て、徳利を投げつければ、消えた。
そこへ旅人が入ってきた。
旅「あー、ひどい降りでぐっすりになった」
伝「おまえは旅人かえ」
旅「越後へ行く旅人さ」
熊「わっちや、亡者かと思った」
旅「や、そういう声は」
囲炉裏を挟み、火明かりに見合わす顔と顔。
伝「わりや、いつぞや甲州で流れも早き早川を」
熊「いかだで逃げた旅人か」
旅「さてこそ、お熊に伝三郎」
伝「死んだとばかり思ったが」
熊「そんならこなたは死なずにいたか」
旅「玉子酒のごちそうにすでに命も御符と祖師の利益で助かり、兄が越後にいるゆえに、それをたよって旅から旅、かたきがここにいようとは知らずに信濃の須坂から夜道をかけて明神越え、思わぬ雨に駆け込んだたのむ木陰の峠茶屋、ここではからず出会ったはうぬらの運も月の輪のお熊伝三二人とも命はもらった、覚悟しろ」
伝三郎が「こいつはたまらねえ」と、囲炉裏の薬缶を打ち返し、パッと立った灰神楽に火は消えて暗闇に。
だんまりの後に、挑み合い、雨のぬかりに踏み滑って、お熊と伝三郎の二人いっしょにに谷底へ落ちた。
旅人は「南無三」と岩に足を踏みかけて谷底をきっと見る。
噺家は「ここが噺の峠で、二人は落ちでございます」
とはなすと、聴客が
「おいおい、お株で落ちのない噺か、しめり切った花火を見てるようにいつでも中途で立ち消えだ。そうして趣向と題と別々で不釣り合いな話だ」
と言えば、
「不取り合わせなところが後家でございます」
出典:岩波版円朝全集別巻1、初代三遊亭円右口演による