【もぐら泥】もぐらどろ 落語演目 あらすじ
成城石井.com ことば 噺家 演目 志ん生 円朝迷宮 千字寄席
【どんな?】
明治の初め頃を舞台にした噺です。
三遊亭円生がやっていました。
別題:おごろもち盗人(上方)
【あらすじ】
大晦日だというのに、女房がむだ遣いしてしまい、やりくりに困っているだんな。
ぶつくさ言いながら帳簿をつけていると、縁の下で、なにやらゴソゴソ。
いわゆる「もぐら」という泥棒で、昼間のうち、物乞いに化けて偵察しておき、夜になると、雨戸の敷居の下を掘りはじめる。
ところが、昼間印をつけた桟までの寸法が合わず、悪戦苦闘。
だんなが
「ええと、この金をこう融通してと、ああ、もう少しなんだがなあ」
とこぼしていると、下でも
「もう少しなんだがなあ」
「わずかばかりで勘定が追っつかねえってのは、おもしろくねえなあ」
「わずかばかりで届かねえってのは、おもしろくねえなあ」
これが聞こえて、かみさんはなにも言っていないというので、おかしいとヒョイと土間をのぞくと、そこから手がにゅっと出ている。
ははあ、こいつは泥棒で、桟を弾いて入ろうってんだと気づいたから、
「とんでもねえ野郎だ。こっちが泥棒に入りたいくらいなんだ」
捕まえて警察に突き出し、あわよくば褒賞金で穴埋めしようと、だんなは考えた。
だんな、そっと女房に細引きを持ってこさせると、やにわに手をふん縛ってしまった。
泥棒、しまったと思ってももう遅く、どんなに泣き落としをかけてもかんべんしてくれない。
おまけにもぐり込んできた犬に小便をかけられ、縁の下で泣きっ面に蜂。
そこへ通りかかったのが廓帰りの男で、行きつけの女郎屋に三円の借金があるのでお履き物を食わされた(追い出された)ところ。
おまけに兄貴分に、明日ぱっと遊ぶんだから、それまでに五円都合しとけと命令されているので、金でも落ちてないかと、下ばかり見て歩いている。
「おい、おい」
「ひえッ、誰だい。脅かすねえ」
「大きな声出すな。下、下」
見ると、縁の下に誰か寝ている。
酔っぱらいかと思うと、
「ちょっとおまえ、しゃごんで(しゃがんで)くれねえか。実は、オレは泥棒なんだ」
一杯おごるから、腹掛けの襷の中からがま口を出し、その中のナイフをオレに持たしてくれ、と頼まれる。
男は
「どこんとこだい。……あ、あったあった。こん中に入ってんのか。へえ、だいぶ景気がいいんだな」
「いくらもねえ。五十銭銀貨が六つ、二円札が二枚、みんなで五円っかねえんだ」
五円と聞いて男、これはしめたと、がま口ごと持ってスタスタ。
「あッ、ちくしょう、泥棒ーう」
【しりたい】
古きよき時代とともに 【RIZAP COOK】
原話は不詳で、上方では「おごろもち盗人」といいます。「おごろもち」は、関西でもぐらのこと。
昭和初期に五代目三遊亭円生(村田源治、1884-1940、デブの)がよく演じ、六代目三遊亭円生(山﨑松尾、1900-79、柏木の)もたまにやりました。
速記が残るのは、六代目蝶花楼馬楽(河原三郎、1908-87)くらい。
東西とも、現在ではあまり演じられません。
オチは皮肉がきいていて、なかなかいいので、すたれるには惜しい噺なのですが。
「第十七捕虜収容所」泥は時代遅れ 【RIZAP COOK】
こうした、軒下に穴を掘って侵入する手口を文字通り「もぐら」と称しました。
もちろん「泥」にかぎらず、戦争映画などでよく見る通り、捕虜収容所や刑務所からの脱走も、穴を掘って鉄条網の向こうに出る「もぐら」方式がもっとも確実だったのですが……。
特に都会で、軒下というものがほとんど姿を消し、、穴を掘ろうにも土の地面そのものがなくなった現代、こうしたクラシックな泥棒とともに、この噺も姿を消す運命にあったのは、当然でしょう。
「ギザ」の使いみちは? 【RIZAP COOK】
50銭銀貨は、明治4年(1871)、表がドラゴン、裏に太陽を刻印したものが大小2種類発行されたのが最初です。俗に「旭日龍」と呼ばれました。
明治39年(1906)のリニューアルで表の龍が消え、通称は「旭日」に。ついで大正11年(1922)、従来より小型で銀の含有量の少ない「鳳凰」デザインのものに統一。
これは「ギザ」「イノシシ」とも呼ばれ、昭和13年(1938)、戦時経済統制で銀貨が姿を消すまで、事実上、流布した最高額の補助貨幣でした。
どんなに使いでがあったかを、大正11年前後の商品価格で調べてみると、50銭銀貨1枚で釣りがきたものは……。
寿司・並2人前、鰻重、天丼・並各1人前、もりそば5-6枚、卵8個、トンカツ3皿、二級酒4合、ビール大瓶1本、ゴールデンバット10本入り8個、炭5kg。湯銭大人1人10日分。
お履き物 【RIZAP COOK】
廓で、長く居続ける客を早く帰すため、履き物に灸をすえるまじないがあったことから、女郎屋を追い立てられる、または出入り差し止めになることを「お履き物を食わされる」といいました。
五代目古今亭志ん生は、たんに「おはきもん」と言っていました。
くすぐりから 【RIZAP COOK】
かみさんが、あとで泥棒仲間に仕返しで火でもつけられたら困るから、逃がしてしまえとだんなに言う。
泥「(調子にのって)ほんとだい、ほんとだい。仲間が大勢いて無鉄砲だから、お宅に火を つけちゃ申し訳ねえ」
亭「つけるんならつけてみろい。どうせオレの家じゃねえや」
……ごもっとも。
六代目蝶花楼馬楽