【大名道具】だいみょうどうぐ 落語演目 あらすじ
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【どんな?】
愉快なバレ噺の最高傑作。大名対大明神の戦いや、いかに。
【あらすじ】
さる殿さま。
男っぷりもなにも申し分ないお方だが、残念ながら男としての道具が相当に小ぶり。
欲求不満で業を煮やした奥方が、その方面にご利益があるという城下外れの金勢大明神に殿さまをむりやり引っ張っていき、モノをもう少し大きくしてもらうよう、祈願することになった。
もちろん、家中総出。
ところが、金勢さまのご神体は男子の一物を型どったもの。
四尺ぐらいのりっぱなものが、黒光りしてそそり立っている。
これを見せつけられた殿さま、カーッとなって
「おのれッ、余にあてつけおるなッ」
槍持ちの可内から槍をひったくると、拝殿にズブリと突き入れて、ご神体をゴロッとひっくり返してしまった。
さあ、怒ったのは大明神。
「いざ、神罰を思い知らせてくれよう」
と、その夜、天にもとどろく雷鳴。
殿さまの股間に冷たい風がスーッと吹いたかと思うと、ただでさえあるかないかだったお道具が、きれいさっぱりなくなった。
殿さまばかりか、家中三千人のモノまで、一夜にして一人残らず大切なものを取られてしまったから、大騒動。
あわててご神体を修理したが、お宝はいっこうに戻らない。
結局、山伏を招いて、秘法「麻羅返し」の祈祷をすることになった。
山伏が汗みどろで
「ノーマクサンマンダー」
とやっているのを見て、神さまも気の毒になったのか、修法三日目の夕刻、一天にわかにかき曇り、津波のような大音響とともに米俵が十俵、大広間にドサッ。
中からなんと、三千人分の道具がザーッとこぼれ出た。
殿さまは涼しい顔で、その中で一番大きなモノをくっつけると、さっさと奥へ入ってしまった。
さあ、それから広間は大混乱。
どれが誰のモノやら、わからない。
取り合いで大げんかになるやら、人のお道具を踏みつけるやらの騒ぎがようやくしずまったあと、まだ一人で大広間をごそごそ捜しているのが、槍持ちの可内で、家中第一の大道具の持ち主。
たった一つ発見したのは、四センチほどにも満たない代物。まさに、殿さまの所有物である。
「三太夫さま、あっしのがありません」
「そこにあるではないか」
「冗談じゃねえ。あっしのは、お城一番八寸銅返しってえ自慢のもんで」
「ああ、あれなら殿が持っていかれた」
可内、泣く泣くあきらめさせられたが、殿さまはめでたく「女殺し」に大変身。
三日三晩、寝所に居続けで、奥方は腰も立たないほど。
そこへバタバタと三太夫がやって来た。
「申し上げますッ」
「何事じゃ」
「ただいま槍持ちの可内めが、腎虚で倒れました」
【うんちく】
艶笑落語の大傑作 【RIZAP COOK】
スケールといい、奇想天外なストーリー展開といい、バレ噺の最高傑作の一つといえるでしょう。
原話は、明和9年(1772=安永元)刊の大坂小咄本『軽口開談儀』中の「大名のお道具紛失」と、安永年間(1772-81)刊の江戸板『豆談語』中の「化もの」。
このうち後者は、殿さま始め家来一同のエテモノを根こそぎさらうのが「化け物」とされているほかは、槍持ちの腎虚というオチまで、大筋はそっくりそのままです。
小島貞二によれば、能見正比古がこれらの原典を脚色、一席にまとめたものとか。能見は血液型による性格分類のパイオニアで知られる人。
当然ながら、口演記録はありません。
金勢大明神 【RIZAP COOK】
通称は金勢さま。金精神、金精大明神、金精さまなどとも呼ばれます。
男根の形をしたご神体をまつった神の一柱をさします。
金清、金生、魂生、根性、根精などとも、さまざまな当て字で表記されています。
男根の形をしたご神体をまつった神であることでひとくくりにされています。
とにかく、ご神体は噺中に出るとおり、巨大でいきり立った男根。これに尽きます。
男の永遠の憧れ、精力絶倫を象徴しているところから、五穀豊穣、安産、子孫繁栄、縁結びなどをつかさどります。
くから信仰を集め、社は日本全国に広く分布しています。
八寸胴返し 【RIZAP COOK】
平常時で24.24cm。いきり立つとどのくらいになるか背筋の寒くなる代物です。
「胴返し」というのは撃剣で、胴を払った太刀先をそのまま返し、反対側の胴、面、小手をなぐ基本技です。
ということは、ピンと反り返った「太刀先」が顔面を直撃……。まさかねえ。
腎虚 【RIZAP COOK】
江戸時代には腎気(精力)の欠乏による病気の総称でした。
狭義では、過度の性行為による衰弱症状です。
これの症例に関しては、「短命」で隠居がわかりやすく解説してくれます。
大名道具 【RIZAP COOK】
題名の「大名道具」とは、大名が持つにふさわしい一流品全般をいいます。
ところで、特に限定していう場合、「大名道具」とは、松の位の太夫のこと。
まさに、大名の権力と財力があって初めてちょうだいできる代物ということです。
太夫にかぎらず、お女郎のことを俗に「寝道具」ともいい、年期が明けてフリーになった遊女をタダで落籍するのを「寝道具をしょってくる」と称しました。
同じ「大名道具」でも、花魁はハード、男のモノはソフトというわけでしょうか。
どんなに特大のソフトを手に入れても肝心のハードがなければ、なんの意味もないわけです。いやはや。
【語の読みと注】
ご利益 ごりやく
金勢大明神 こんせいだいみょうじん
一物 いちもつ
麻羅返し まらがえし
腎虚 じんきょ