がちぎょうじ【月行事】ことば 江戸覗き

この項では、主に長屋の大家さん(家主、家守、差配)がどんな仕事をしていたのか、町方の組織の中でどんな立場だったのかについて記します。

月行事が生まれるまで  【RIZAP COOK】

1600年代中頃から1700年代にかけて、江戸では富裕商家による町屋敷の集積が進展していき、不在地主が所有する町屋敷がたくさん出てきました。

1600年代を通して、町方行政の組織や機構が整備されていき、町のすべき業務が多様化してくると、家持はその役割分担を嫌がるようになりました。町の運営は家持の代理人である家主(家守、差配)に委託されていきました。

この家主こそが、落語におなじみの「大家さん」です。地主そのものではなく、地主の代行者だったのです。

やがて、家主たちが同業者を集めて五人組を構成し、五人組の中から毎月交代で町用、公用のを務める人を出すようにしました。これを月行事といいます。

ただ、月行事を五人組以外から雇うようなこともあって、しばしば問題が生じていました。寛文6年(1666)10月27日、「雇月行事」が禁止されました。

月行事の仕事  【RIZAP COOK】

町奉行→町年寄→年番名主→名主→家持(大家が代行)→地借人(または店借人)、といった伝達順序です。年番名主はのちに名主肝煎、世話掛名主になっていきます。

月行事の仕事とは。そのいろいろを列挙してみましょう。

名主からの町触の町内への伝達
町内訴訟、願届への加判、町奉行所への付き添い
検視見分の立ち会い
囚人の保留
名主の指揮下での火消人足の差配
火の番
夜廻り
上下水道の普請
井戸の修理
町内道路の修繕
木戸番、自身番の修復
喧嘩公論の仲裁
捨て子や行き倒れの世話
切支丹宗門の取り締まり
浪人の取り締まり

月行事も名主同様、町内にかかわるすべての町用、公用をこなしました。

自身番  【RIZAP COOK】

月行事はこれらのことがらを町内の自身番に詰めて行いました。自身番には月行事の補助役として書役がいました。自身番は町内につくられた交番のようなものです。

月行事の任期中は五人組の責務についてはほかの組員に代行してもらっていたようです。

自身番は犯罪者を拘留する場でもありました。こんな川柳があります。

月行事 しらみの喰ふを かいてやり

縛られている犯人がしらみに食われてかゆいので、月行事が代わりにかいてやるという風景です。なんだか、ほほえましいですね。

月行事持  【RIZAP COOK】

町並地(町奉行・代官両支配地)では複数の五人組の代表として「年寄」を置くところもあったようです。名主のいない町では月行事が名主の代行をしたそうです。家数が少なくて名主役料も負担できない、寺社門前町家、拝領町屋敷などでは月行事持でした。

参考文献:吉原健一郎『江戸の町役人』(吉川弘文館、1980年)、幸田成友『江戸と大坂』(冨山房百科文庫、1995年)、加藤貴編『江戸を知る事典(東京堂出版、2004年)、大濱徹也、吉原健一郎編『江戸東京年表』(小学館、1993年)、『新装普及版 江戸文学地名辞典』(東京堂出版、1997年)

【語の読みと注】
家持 いえもち
家主 いえぬし:大家さん。差配、家守
家守 やもり:大家さんのこと
公役 くやく
町並地 まちなみち

町年寄 名主

【RIZAP COOK】

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にばんせんじ【二番煎じ】演目

自身番でも飲酒はご法度。江戸時代の常識を踏まえてお楽しみください。

あらすじ

火事は江戸の華で、特に真冬は大火事が耐えないので、町内で自身番を置き、商家のだんな衆が交代で火の番として、夜巡回することになった。

寒いので手を抜きたくても、定町廻り同心の目が光っているので、しかたがない。

そこで月番のだんなの発案で、二組に分かれ、交代で、一組は夜回り、一組は番小屋で酒をのんで待機していることに決めた。

最初の組が見回りに出ると、凍るような寒さ。

みな手を出したくない。

宗助は提灯を股ぐらにはさんで歩くし、拍子木のだんなは両手を袂へ入れたまま打つので、全く音がしない。

鳴子係のだんなは前掛けに紐をぶら下げて、歩くたびに膝で蹴る横着ぶりだし、金棒持ちの辰つぁんに至っては、握ると冷たいから、紐を持ってずるずる引きずっている。

誰かが
「火の用心」
と大声で呼ばわらなくてはならないが、拍子木のだんなにやらせると低音で
「ひィのよォじん」
と、謡の調子になってしまうし、鳴子のだんなだと
「チチチンツン、ひのよおおじいん、よっ」
と新内。

辰つぁんは辰つぁんで、若いころ勘当されて吉原の火廻りをしたことを思い出し、
「ひのよおおじん、さっしゃりましょおお」
と廓の金棒引き。

一苦労して戻ってくると、やっと火にありつける。

一人が月番に、酒を持ってきたからみなさんで、と申し出た。

「ああたッ、ここをどこだと思ってるんです。自身番ですよ。役人に知れたら大変です」
とはいうものの、それはタテマエ。

酒だから悪いので、煎じ薬のつもりならかまわないだろうと、土瓶の茶を捨てて「薬」を入れ、酒盛りが始まる。

そうなると肴が欲しいが、おあつらえ向きにもう一人が、猪の肉を持ってきたという。

それも、土鍋を背中に背負ってくるソツのなさ。

一同、先程の寒さなどどこへやら、のめや歌えのドンチャン騒ぎ。

辰つぁんの都々逸がとっ拍子もない蛮声で、たちまち同心の耳に届く。

「ここを開けろッ。番の者はおらんかッ」

慌てて土瓶と鍋を隠したが、全員酔いも醒めてビクビク。

「あー、今わしが『番』と申したら『しっ』と申したな。あれは何だ」

「へえ、寒いから、シ(火)をおこそうとしたんで」
「土瓶のようなものを隠したな」
「風邪よけに煎じ薬をひとつ」

役人、にやりと笑って
「さようか。ならば、わしにも煎じ薬を一杯のませろ」

しかたなく、そうっと茶碗を差し出すとぐいっとのみ
「ああ、よしよし。これはよい煎じ薬だな。ところで、さっき鍋のようなものを」
「へえ、口直しに」
「ならば、その口直しを出せ」

もう一杯もう一杯と、酒も肉もきれいに片づけられてしまう。

「ええ、まことにすみませんが、煎じ薬はもうございません」
「ないとあらばしかたがない。拙者一回りまわってくる。二番を煎じておけ」

【RIZAP COOK】

しりたい

火の番  【RIZAP COOK】

自身番については、「粗忽長屋」でもふれましたが、町内の防火のため、表通りに面した町家では、必ず輪番で人を出し、火の番、つまり冬の夜の夜回りをすることになっていました。

といっても、それはタテマエで、たいてい、「番太郎」と呼ぶ番人をやとって、火の番を代行させることが黙認されていたのです。

ところが、この噺はそろそろ物情騒然としてきた幕末の設定ということで、お奉行所のお達しでやむなく旦那衆がうちそろって出勤し、慣れぬ厳冬の夜回りで悲喜こもごもの騒動を引き起こします。

与力、同心

二番煎じ  【RIZAP COOK】

漢方薬を一度煎じた後、さらに水を加え、薄めて煮出したものです。金気をきらい、土瓶などを用いました。

吉原の火回り  【RIZAP COOK】

歌舞伎「助六所縁江戸桜」で、序幕に二人の廓の若い衆が、鉄棒を突き、棒先の鉄輪を鳴らしながら登場するシーンを、芝居好きの方ならご記憶と思います。

あれが「金棒ひき」で、火回りの際はもちろん、おいらん道中など、重要なイベントの前にも、先触れとして出ます。

「火の用心、さっしゃりましょう」という掛け声は、吉原に限られていました。

なお、長屋のこうるさい神さん連中が「金棒引き」と呼ばれるのは、火の番が鉄輪をガチャガチャ鳴らして歩くように、町内のうわさをあることないことかまびすしく触れて回ることからきています。

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【二番煎じ 古今亭志ん朝】

【RIZAP COOK】