【ふたなり】ふたなり 落語演目 あらすじ
【どんな?】
タイトルとはイメージ違った爆笑噺。
いまではあまり聴けない珍品です。
別題:亀右衛門 書き置き違い(上方)
【あらすじ】
ある田舎のお話。
土地の親分で、面倒見がよいので有名な亀右衛門のところに、猟師が二人泣きついてくる。
五両の借金が返せないので、夜逃げをしなければならないという。
何でも呑み込む(頼みを引き受ける)ため、鰐鮫と異名を取っている手前、なんとかしてやると請け負ったものの、亀右衛門にも金はない。
そこで、妖怪が出ると噂の高い天神の森を通って小松原のおかんこ婆という高利貸しのところへ借金に行くことになった。
森に差しかかると、ふいに若い女に声をかけられる。
どうせ狐か狸だろうと思ったが、これがなかなかいい女なので、話を聞いてみると
「若気の至りで男と道ならないことをした、連れて逃げてもらおうと思ったが、薄情にも男は行方をくらましてしまい、この上は死ぬよりほかはないから、書き置きを親許に届けてほしい」
との願い。
「もし聞き届けてくださるのなら、死ぬ身にお金は必要なし、持ち出した十両があるので、それを差し上げます」
こんなおいしい話はない。
亀右衛門はたちまち飛びついた。
「もう一つお願いがございます」
「なんだい」
「あんまり急いだので、死ぬ用意が有りません。ここは飛び込む川もなし、どうしたら死ねるか、教えてください」
そこで、目についたのが目の前の松の木。
亀右衛門、首くくりの実技指導をしているうちに、熱が入りすぎて、縄から思わず手を放したのが運の尽き。
自分がぶら下がってしまい、あえない最期。
「あァらいやだわ、この人。あたし、なんだか死ぬのが嫌になっちゃった。死人にお金は必要ないから、今この人に渡した十両、また返してもらおう」
ひどい奴があるもので、風を食らって逃げてしまった。
翌朝、親分の帰りが遅いのを心配した例の猟師二人が捜しに来て、哀れにもぶらぶら揺れている亀右衛門の死骸を発見して大騒ぎ。
さっそく、役人のお取調べとなる。
「ここに書き置きがあるな。覚悟の自殺と見える。どれどれ『ご両親さまに、先立つ不幸、かえりみず、かの人と深く言い交わし、ひと夜、ふた夜、三夜となり、ついにお腹に子を宿し…』。なんじゃ、これは。これこれ、その方ども、この者は男子か女子か、いずれじゃ」
「へえ、猟師(両子)でございます」
底本:五代目古今亭志ん生
【しりたい】
志ん生、米朝の珍品 【RIZAP COOK】
別題「書置き違い」の上方落語を東京に移植したものですが、古い速記もなく、原話ほか、詳しいこともよくわかりません。
東京では「亀右衛門」の題も使われ、戦後は五代目古今亭志ん生の一手専売でした。
その志ん生も、しょっちゅうやった噺ではありません。埋もれるには惜しい逸品ですが、発想が古めかしいためか、なぜか演者は少なく、珍品の部類に入るでしょう。
男女の垣根が取っ払われつつある現代では、この噺程度の「不道徳性」では刺激が少ないかもしれません。
上方では、桂米朝が東京通り「ふたなり」の題で演じていました。弟子の枝雀のも「それなりに」エキセントリックで、けっこうでした。
上方のオチと演出 【RIZAP COOK】
現行のものもダジャレオチで、決してほめられたものではありませんが、それだけに、演者によってオチの工夫がみられます。
上方のオチは、「おまえの親父はふたなりか」と聞かれ、「夜前食うたなりです」というもので、これもかなり苦し紛れ。
上方では、古くは首をつる主人公は、名前はありませんでした。
役人が「亀右衛門はふたなりであろう」と先に言ってしまい、「いえ、昨晩着たなりです」とする演者もあったようです。これなど、早とちりで「ふたなり」を先に出してしまい、あわてて咄嗟にゴマかしたにおいがぷんぷんするのですが。
ふたなり 【RIZAP COOK】
両性具有、アンドロギュヌスのことです。古くは「はにわり」ともいいました。雌雄一体は、下等生物にはよくあるそうですが、さすがに人間となると……。