成城石井.com ことば 噺家 演目 志ん生 円朝迷宮 千字寄席
山田風太郎(山田誠也、1922-2011)の『神曲崩壊』にはこんな話も載っている。
せがれの志ん朝が生前、高級ふりかけ「錦松梅」のCMに出ていた。おやじの方は、そういうものは飯にはかけない。志ん生が茶漬けにしたのは、もちろん酒。鮭茶漬け? いや、酒茶漬け。
もっとも、若き日は焼酎茶漬け、だったようだ。酒のうちでももっとも安い「鬼ころし」さえ買えなかったらしい。
高田裕史
500題超。演目ごと1000字にギュッと。どこよりも深くわかりやすく。
山田風太郎(山田誠也、1922-2001、小説家)の地獄めぐりの奇書「神曲崩壊」に顔を出す志ん生。ちょっと覗いてみよう。
アル中どもの堕ちる酩酊地獄の外れが、今の住処。
酒の大河に舟を浮かべ、そこで船頭になっている。
もっとも、とっくに櫓などは放り出し、ねじり鉢巻フンドシ一本。片手に茶碗、片手に釣り竿。
傍らの手桶で、のべつ酒の河から並々と汲んでは、茶碗に注いでグビリグビリ。
地獄どころか、太平天国。
「ありったけ平らげるったって、河ぜんぶが酒じゃあ、いくらあたしだって
どうしようもないやね。ウイウイ、ウイ、ウーイ」
で、時たま左手の釣り竿を持ち上げては、
「これでうめえサカナでも釣れりゃあもっとありがてえんだが。ウーイ
。
何しろ酒の河だけに、ウワバミなんかが釣れても困る」
あまり出来のよくないサゲが付いたところで、おあとよろしく。
天からは、沛然と永遠に降り注ぐアルコールのくっさい雨。
遠くに霞むは、針の山ならぬ酒樽山。
「おっとっと、なんかひっかかりやがったぜ」
何が釣れたかは、小説本文続きをご参照のほど。
高田裕史