くもすけのどこをみているのだろう【雲助のどこを見ているのだろう】古木優


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先日、落語家の「実力」って、なんだろう?という記事を見つけました。

ここには「落語家の偏差値」が載っておりました。かつて、われわれ(高田裕史/古木優)がアップロードしていた記事です。

引っ越しやリニューアルのどさくさで散逸したままでした。もう、わが方には残っていません。懐かしかったので、孫引きさせていただきました。それが、以下の通り。

[独断と偏見] 基準は、うまいかへたか、だけ。
70.0 小三治
67.5 雲助
65.0 さん喬 権太楼 桃太郎
62.5 小柳枝 鯉昇 喜多八 志ん輔 小里ん
60.0 小朝 川柳 馬桜 志ん五
57.5 志ん橋 正雀 小満ん 喬太郎
55.0 円太郎 小さん ぜん馬 竜楽
52.5 昇太 扇遊 菊春
50.0 歌之介 馬生 市馬 平治 白酒 扇治 正朝
47.5 玉の輔 たい平  扇辰 三三 兼好 文左衛門 金時
45.0 花緑 彦いち 志の輔 南なん 菊之丞 とん馬
42.5 志らく 一琴 白鳥 談春
40.0 三平 幸丸 楽輔
37.5 歌武蔵 談笑
35.0 正蔵
32.5 愛楽
30.0 

以上は、「HOME★9(ほめ・く) 偏屈爺さんの世迷い事」というブログからの転載です。勝手に転載してしまいましたが、お許しを。すみませーん。

「偏屈爺さん」は記事中、われわれの評価だけを記していたのではありません。

堀井憲一郎氏が『週刊文春』に載せた「東都落語家2008ランキング」をも引用して、両者を比較しているのです。

ともに、2008年当時の落語家を評価しているわけです。ちょっと凝った趣向です。おもしろい。

堀井氏のも孫引きしてみましょう。それが、以下の通り。

0 立川談志
1 柳家小三治
2 立川志の輔
3 春風亭小朝
4 柳家権太楼
5 春風亭昇太
6 立川談春
7 立川志らく
8 柳家喬太郎
9 柳家さん喬
10 柳亭市馬
11 柳家喜多八
12 林家たい平
13 柳家花緑
14 三遊亭白鳥
15 五街道雲助
16 古今亭志ん輔
17 三遊亭小遊三
18 古今亭菊之丞
19 三遊亭歌武蔵
20 三遊亭遊雀
21 林家正蔵
22 柳家三三
23 昔昔亭桃太郎
24 春風亭一朝
25 瀧川鯉昇
26 春風亭小柳枝
27 立川談笑
28 三遊亭歌之介
29 橘家文左衛門
30 林家彦いち
31 春風亭百栄
32 三遊亭圓丈
33 桃月庵白酒
34 入船亭扇辰
35 三遊亭兼好
36 入船亭扇遊
37 橘家圓太郎
38 春風亭正朝
39 桂歌春
40 むかし家今松
41 春風亭柳橋
42 三遊亭笑遊
43 古今亭志ん五
44 柳家蝠丸
45 柳家小満ん
46 川柳川柳
47 林家三平
48 古今亭寿輔
49 立川生志
50 桂歌丸
51 春風亭勢朝
52 林家正雀
53 柳家はん冶
54 林家木久扇
55 三遊亭圓歌
56 橘家圓蔵

わが方が56人までしか取り上げていないため、堀井氏のほうも56人どまりにして、比較の条件を同じくしています。工夫を見せている。さすが。

そこで、「偏屈爺さん」の解析。

①1位から15位までは両者とも同じ、②16位以下ではだいぶ違ってる、ということでした。

おおざっぱにはそんなところでしょう。同意いたします。

ただ。

われわれの視点と、堀井氏の視点には、じつは、決定的な違いがあります。

五街道雲助師についての評価です。

われわれは、小三治の次は雲助、というのが、当時の評価の眼目でした。

じつは、この一点だけのためにこさえたのが「落語家の偏差値」だったのです。誤解を恐れずに極論すれば、ほかはおにぎやかしです。

堀井氏のは、雲助を15位(談志を含めれば16位)に置いています。

ランキングですから、序列のように見えます。その結果、権太楼やさん喬よりも、雲助は下位となっています。

雲助の芸をあまり重視していなかった、というふうにも見えてしまいます。おそらく、堀井氏の心底はそんなところだったのでしょう。

ちなみに、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(広瀬和生著、光文社新書、2011年)という本。

このほほえましい怪著では、落語評論家の広瀬氏が、巻末付録に「落語家」「この一席」私的ランキング2010、というものを掲げています。

初出は2010年。われわれの評価よりも新しいはずなのですが、雲助は出てこない。

弟子の白酒は絶賛していても、師匠には言及がない。雲助の芸風は落語評論家の埒外である、と唱えているのかもしれません。

要約すれば。

堀井氏も落語評論家の広瀬氏も、雲助の芸はどうでもよい、という評価なのでしょう。

いまも、雲助への評価は、お二人とも変わらないのでしょうか。

落語家のどこを見ているのだろう、と思います。

世に落語家と称する方々は900人余いるようですが、噺を何度も聴いてみたいなと思えるのは、10人いるかな、といったところでしょうか。

話芸についての、この数は、いつの時代であっても、変わらないように思えます。

ただ。

それとはべつに、味わい深く、ちょいと乙な、えも言われずに心地よく、つい気になってしょうがない落語家というのが、じつは、いるものです。

落語家の芸は、噺を聴かせるだけではありません。

さまざまな所作で笑わせてくれるし、そこにいるだけで楽しくなるし、人の心をあたたかく豊かにしてくれます。

これらもまた、落語家の魅力です。

新東宝の67分間を暗がりで見ているうちに、情が移って岡惚れしてしまう女優がいるもんです。織田おりた倭歌わかなんかが、私にはそんな人でした。(『の・ようなもの』にもちょっとだけ出てました)

あれにも似た感覚かなと思っています。

この、味わい深さとほんのりしたぬくもり。なんともいいもんです。

都内の寄席での10分程度のかかわりでは、「岡惚れ」は至難の業でしょうか。

いやいや、そうでもありますまい。

その昔、深夜寄席で見つけて以来のとっておきの面々も、ご活躍ですから。

今にして思えば、あの偏差値の方々の多くは、深夜寄席での「先物買い」だったのかもしれません。

※「HOME★9(ほめ・く) 偏屈爺さんの世迷い事」さん、ありがとうございました。



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とうげつあんはくしゅ【桃月庵白酒】噺家

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【芸種】落語
【所属】落語協会 理事
【前座】1992年4月、六代目五街道雲助に、五街道はたごで
【二ツ目】1995年6月、五街道喜助
【真打ち】2005年9月、三代目桃月庵白酒
【出囃子】江戸
【定紋】裏梅、葉付き三ツ桃
【本名】愛甲尚人
【生年月日】1968年12月26日
【出身地】鹿児島県肝属郡
【学歴】鹿児島県立鶴丸高校→早稲田大学社会科学部除籍 ※落研
【血液型】A型
【ネタ】朝友 など
【出典】公式 落語協会 Wiki
【蛇足】江戸東京落語まつり2023(2023年6月30日-7月5日、総勢36人)。

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しんきろうりゅうぎょく【蜃気楼龍玉】噺家

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【芸種】落語
【所属】落語協会
【入門】1997年2月、六代目五街道雲助
【前座】1997年4月、五街道のぼり
【二ツ目】2000年6月、金原亭駒七。05年2月、五街道弥助
【真打ち】2010年9月、三代目蜃気楼龍玉
【出囃子】三下がり箱根八里
【定紋】裏梅
【本名】加藤暢彦
【生年月日】1972年11月10日
【出身地】埼玉県秩父市
【学歴】小鹿野高校
【血液型】A型
【ネタ】
【出典】公式 落語協会 Wiki
【蛇足】趣味は飲酒。2000年、岡本マキ賞。2008年、第18回北とぴあ若手落語競演会大賞。2014年4月、平成25年度国立演芸場「花形演芸大賞」銀賞。2014年、第69回文化庁芸術祭新人賞。2016年3月 、平成27年度国立演芸場「花形演芸大賞」大賞。



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すみだがわばせき【隅田川馬石】噺家

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【芸種】落語
【所属】落語協会
【入門】1993年10月、六代目五街道雲助
【前座】1993年11月、五街道わたし
【二ツ目】1997年9月、五街道佐助
【真打ち】2007年3月、四代目隅田川馬石
【出囃子】岸の柳
【定紋】裏梅
【本名】村上覚
【生年月日】1969年7月14日
【出身地】兵庫県西脇市
【学歴】兵庫県立西脇工業高校→石坂浩二主宰劇団「急旋回」
【血液型】B型
【ネタ】金明竹 お富与三郎 名人長二 など
【出典】公式 落語協会 Wiki
【蛇足】趣味は義太夫、マラソン。1999年、平成11年度北とぴあ若手落語家競演会奨励賞。2007年、第12回林家彦六賞。2012年12月、第67回文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞。2021年12月、第76回文化庁芸術祭賞大衆芸能部門芸術祭大賞。

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第617回TBS落語研究会 寸評 2019年11月26日

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一目上がり 入船亭小辰 ★★

マクラの間、早口の言葉が粒立たず聞き取れない、大家と隠居は同一人物なのか、など、アラを言えば切りがない。隠居が説明するくだり、ちゃんとしぐさ、目の動きをともなっているのはよい。マクラの、頭がタイムスリップした水道調査員は、まったく老人になっていないが、「え? どっちの三平だ」はけっこうウケた。

駒長 蜃気楼龍玉 ★★★

円朝作品に意欲的に取り組み、師匠(雲助)譲りで語り口にもどっしり貫目が付いてきた。おしむらくは言葉に重複とくどさが目立つ。女房が「丈八」と直前に言っているのに亭主が「深川から丈八という男が」と繰り返したり、「損料」で足りるのを「損料代」と重ねたり。だからか、夫婦の会話を含む前半がダレる。立板に水のベランメエは貴重品だけに、そのへんの整理を切に望みたい。

掛け取り 柳亭市馬 ★★★★★

本日の白眉。この人、噺家には珍しく、地声がよく響くバリトンなので、ネタによってはそれがかえって薄味な印象を与え、実力の割に損をする場合があるのだが、こうした音曲を聴かせる噺になると、まず当代の独壇場。特に義太夫は、変に上方風にしゃがれず、朗々とした江戸前でけっこうなもの。日頃きちんと稽古していなければこうは行かないだろう。全体の演出では、最後に芝居ごっこの掛け合いを入れる円生の型。「掛け取り」なので、万才のくだりはない。けんかで逆に証文を入れさせる抱腹絶倒なくすぐりも円生通りだが、後味の悪さを少しも感じさせず、洒落気分が横溢。シメに古風な歌舞伎の味を堪能させて、いや、バカンマ。ごちそうさまでげした。

将棋の殿さま 三笑亭夢丸 ★★★

殿さまのパワハラぶりがエスカレートするにつれ、要所に新規の過激なくすぐりを交え、楽しめた。「切腹申し渡す」と言葉で言う代わりに、その都度、電光石火のいぐさで示すのはいい工夫に見えた。言葉遣いからして武士が武士にならず、昭和初期の映画に見る、ワンマン社長の前で平蜘蛛のようにはいつくばる社畜リーマンのさまなのは奇異。言葉とがめどこ吹く風の爆笑路線を突っ走るのだろうが、それでも円蔵の域に達するには、もう少したたみかけるリズム感を身に着けてほしいように思った。

火事息子 五街道雲助 ★★★★★

自他ともに任ずる十八番ゆえ、もはやなんの茶々も入れどころなし。しっとりと落ち着いた語り口、風貌まで、近年、師匠(馬生)そっくりになってきた感。古希を超えてもはや円熟の至芸に見えた。だんなの描写は優れ、目塗りのやり方を滾々と言って聞かせるくだりは、確かにこの人物が小僧からたたき上げの苦労人と納得させられる。全体の運びとしては、後半の母親のすっとんきょうぶりで笑いを多く取ることにより、とかくお涙ちょうだいに陥りがちなこの噺に、すっきりとよりよいバランス感を与えている。

高田裕史

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