饅頭こわい まんじゅうこわい 演目

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好きなのに嫌いといってまんまとせしめる噺。前座がよくやってます。

【あらすじ】

町内の若い衆が集まって、好きな食べ物をああだこうだと言っているうち、人には好き嫌いがあるという話になる。

虫が好かないというが、人は胞衣(えな)を埋めた土の上を初めて通った生き物を嫌いになるという言い伝えがある。

蛙なら蛙が嫌いになり、蛇なら蛇。

嫌いな虫を言い合い、蜘蛛、ヤモリ、オケラ、百足といろいろ出た。

嫌いなものはこわい。

黙っている辰さんに
「おめえは、どんなもんが恐い?」
と聞くと
「ないッ」
「でも、なんかあるだろう」
としつこく突っ込むと
「おととい、カカアの炊いた飯がコワかった」
「そのコワいじゃなくて、動けなくなるようなこわいものだ」
と言うと
「カカアがふんどしを洗ったとき、糊をうんとくっつけちゃった。コワくって歩けねえ」

ああ言えばこう言うだから癪にさわって、
「蛇はどうだ」
と聞くと、
「あんなものは、頭痛のときの鉢巻にする」
とうそぶく。

トカゲは三杯酢にして食ってしまうし、蟻はゴマ塩代わりに飯にかける。

忌ま忌ましいので、
「なにか一つくらいないのか」
と食い下がると
「へへ、実は、それはあるよ。それを言うと、体中総毛立って震えてくる」
「へえ、なんだい」
「一度しか言わないよ。……まんじゅう」

一同-然。

「どうして」
と聞くと、
「因果で、オレのえなの上に子供が饅頭を落っことしたのに違いない」
という。

「菓子屋の前に行くと目をつぶって駆け出すし、思っただけでもこう総毛だって」
と辰さん、急にブルブル震えだす。

「こわいッ、こわいよォッ」

泣き出して、とうとう寝込んでしまった。

そこで一同、あいつは普段から、のみ屋の割り前は払わないし、けんかは強いからかなわない。いいことを聞いたから、一度ひどい目に会わせてやろうと、計略を練る。

「話を聞いてさえあんなに震えるんだから、実物を見たらきっとひっくり返って、身体中ブチになって死んじまうかもしれねえ、いるとじゃまだから、アン殺でアンコロしちまおう」
というわけで、菓子屋から山のように饅頭を買ってくる。

枕元に置くと、
「おい、辰さん、起きねえ。天丼を食おうてんだ。付き合いなよッ」

まだ蒲団をかぶって
「まんじゅうこわいよッ」
とうめいていた辰さん、枕元を見るなり
「ウワーッ」
と絶叫。

「うわあッ、こんなもの、だれがッ。こわいよッ。唐まんじゅうがこわい。こわいよッ」
と叫びながら、まんじゅうをムシャムシャ平らげ始めた。

障子の陰でワクワクして見ていた連中、だまされたと知ってカンカン。

「おう、こわいこわいと言ってたまんじゅうを食いやがって。こんちくしょう、てめえはいったい、なにがこわいんだ」
「うわーッ、こわいよ。今度は、お茶がこわい」

【しりたい】

ネタは中国から

中国・明代の笑話本『五雑組(俎)』や『笑府』に原型がありますが、江戸では小ばなし程度の扱いで、一席ものの落語としては、むしろ上方が本場でした。

落語の代表作

明治末期に、奇行でならした「狂馬楽」こと三代目蝶花楼馬楽が東京に移植。「饅頭嫌い」の演題で初演して以来、「まんこわ」で通る、落語を代表する人気演目になりました。

さまざまなやり方

古くから演じられた噺だけに、さまざまな演者によって、細部が整えられてきました。

柳家小さん系や、後輩の五代目小さんに写してもらい十八番にした三代目桂三木助では、饅頭男を「松公」で演じます。

饅頭を準備するとき、「腰高饅頭かい? おあとは? 唐饅頭? お次は?酒饅頭? おあとは? そば饅頭……栗饅頭……」というように、色々な饅頭の名を並べ立てるのが型になっています。

五代目古今亭志ん生は、むしろすっきりと短く演じています。

くすぐりもいろいろ

昭和22年(1947)9月、上野・鈴本の楽屋で急逝した四代目柳家小さんは、饅頭男がこわがる場面で、「クモの糸を納豆代わりに食う」「ミミズはトマトソースでマカロニ代わりに食う」といった、ゲテ物趣味的なギャグを加えました。これは、五代目小さん、三木助もやっています。

三木助では、最後に男がこわいこわいと言いながら饅頭をふところに入れてしまい、「風呂敷はねえか」と、ずうずうしく言うくすぐり、また、こわいものを言い合う場面で、「おれァ、そばがいけない。うどんがいけない。だからフンドシもしめない」などがあります。

饅頭

日本渡来は、14世紀に禅僧が中国(元)から帰国する際、伴った中国人が、奈良で店を開いたのが最初とも、それ以前に源頼朝が次男(実朝)誕生の百日の祝いに近親や重臣に配った「十字」という菓子が始まりだともいい、はっきりしません。

胞衣

えな。胎児を包む膜ですが、胎盤をいうこともあります。噺の発端になる、「初めて通った生き物を……」という俗信は古くからあって、川柳でも、『柳多留』巻十六(天明元=1781年刊)に、

ゑなの上 初手(しょて=最初)どらもの(放蕩者)に ふませたい

とあります。