あなごでからぬけ【穴子でからぬけ】落語演目

成城石井.com  ことば 噺家  演目 志ん生 円朝迷宮 千字寄席

【どんな?】

与太郎にからかわれる短い噺です。
円生の逃げ噺としても使われました。

【あらすじ】

与太郎が、源さんとなぞなぞの賭けをする。

まず十円賭けて
「まっ黒で大きくて、角があって足が四本あって、モーッと鳴くもの、なんだ」
「てめえが考えつくのはせいぜいその程度だ。牛に決まってら」

これでまず、十円負け。

今度は、よせばいいのに二十円に値上げして
「じゃ、もっと難しいの。やっぱり黒くて嘴があって空飛んで、カアーッって鳴くもの」
「どこが難しい。カラスだろ」

次は犬を出して簡単に当てられる。

いくら取られても懲りない与太郎、こともあろうに今度は五百円で、
「絶対に当たらない」
という問題。

「長いのがあれば短いのもある。太いのも細いのもあって、つかむとヌルヌルするもの、なあーんだ」
「この野郎、オレがヘビだと言やあウナギ、ウナギと言やあヘビと言うつもりだな。ずるいぞ」
「じゃ、両方言ってもいいや」
「ヘビにウナギだ」
「へへっ、残念。穴子でからぬけ」

与太郎、次にまた同じ問題を出すので、源さん
「ヘビにウナギに穴子だな」
ってえと与太郎、
「へへっ、今度はずいきの腐ったのだ」

底本:六代目三遊亭円生

成城石井.com  ことば 噺家  演目 志ん生 円朝迷宮 千字寄席

【しりたい】

なぞかけ勝負

最後の「長いのもあれば……」のくだりの原話は明和9年(1772)刊の小咄本『楽牽頭』中の「なぞ」で、ここでは、最初にまともに「うなぎ」と言い当てられ、続けて同じ問題で、今度は「蛇」と答えたのを「おっと、うなぎのつら(面)でござい」と落としています。

前の二問も、おそらくそれぞれネタ本があったか、代々の落語家がいろいろに考えたものが、いつしかこの形に固定したのでしょう。

原話では、このなぞなぞ遊びは「四割八分」の賭けになっています。

これは、勝つと掛け金が5倍につくという、ハイレートのバクチで、最初は一両のビットですから、「うなぎ」と答えた方は五両のもうけですが、これが恐ろしい罠。

イカサマ同然の第二問にまんまとひっかかり、今度は何と二十五両の負けになったしまったわけです。こうなると遊びどころではなく、血の雨が降ったかもしれません。

からぬけ

完全に言い逃れた、または出し抜いたの意味です。

題名は、穴子はぬるぬるしていて、つかむとするりと逃げることから、それと掛けたものでしょう。

ずいき

サトイモの茎で、「随喜」と当て字します。

特に「肥後ずいき」として、江戸時代には淫具として有名でした。

艶笑落語や小咄には、たびたび登場します。

オチの通り、帯状の細長いもので、これを何回りも男のエテモノに巻きつけて用いたものですが、効果のほどは疑問です。

隠れた「円生十八番」

六代目三遊亭円生(山﨑松尾、1900.9.3-79.9.3、柏木の)が、いわゆる「逃げ噺」として客がセコなとき(客種が悪く、気が乗らない高座)で演じた噺の一つです。

円生のこの種の噺では、ほかに「四宿の屁」「おかふい」などが有名でした。普通は前座噺、またはマクラ噺で、円生は普通「穴子でからぬけだ」で切っていました。

「からぬけ」からの噺家

四代目柳家小さん(大野菊松、1888-1947)は、その『芸談聞書き』(安藤鶴夫・述)で、昔は楽屋内で「『穴子でからぬけ』からやった」というと、天狗連から化けたのではなく、前座からちゃんとした修行を積んだという証しで、大変な権威になっていた、と語っていました。

明治大正では、入門して一番最初に教わるのが、この噺であることが多かったのでしょう。相撲で言う「序の口(前相撲)から取った」と同じことですね。

成城石井.com  ことば 噺家  演目 志ん生 円朝迷宮 千字寄席

ちょうちんや【提灯屋】落語演目

  成城石井.com  ことば 演目  千字寄席

 

【どんな?】

町内に新しい店。
無筆でなんの店かわからず。
それが提灯を造って売る店で。
上方から東京にもってきた噺。
滑稽噺の秀作です。

あらすじ

無筆が多かった昔の話。

町内でチンドン屋が、広告を配って歩いている。

長屋の連中、広告を見てやってきたと言えば向こうで喜び、お銚子の一本も出すかもしれないと、さっそく出かける相談。

ところがあいにく、誰も字が読めず、何屋なのかわからない。

そば屋ならもっとのびた字を書きそうなものだし、寿司屋なら握った字を書いてあるはず、てんぷら屋か、はたまた中華料理か、変わったところで、大阪ではすっぽんをまるというから、こう字が丸まったところを見てすっぽん屋かしら、いや、かしわ(鶏)料理屋だろうと、食い意地が張って、片っ端から食い物屋の名前を並べ立てても、らちが明かない。

そこへ米屋の隠居が来たので、読んでもらうと、これが食い物ではなく、提灯屋の新規開店の広告。

一同がっかり。

「当日より向こう七日間は開店祝いとして、提灯のご紋、笠の印等は無代にて書き入れ申し候。柏町一丁目五番地、提灯屋ブラ右衛門」と、あった。

万一、書けない紋があるときは、お望みの提灯をタダでくれるというので、「大きなことを抜かしゃあがる。それなら証拠の広告を持って、タダでもらってこようじゃねえか」と、一座の兄貴分が計略を巡らす。

とても書けないような紋を言い立て、へこましてやろうという算段だ。

まず一人目が、
「鍾馗さまが大蛇を輪切りにした紋を書いてみろ」
と判じ物で迫り、降参させる。

鍾馗さまは剣を持っていて、うわばみを胴斬りにしたから、まっ二つに分かれて片方がうわ、もう片方がばみ。併せて、剣かたばみ、というわけ。

二人目は
「仏壇の地震てんだが、書けるか?」

仏壇に地震がくれば、りんもどうもひっくり返るから、りんどう崩し。

これで、ぶら提灯を二つせしめた。

三人目は「髪結床看板が湯に入って熱い」という、妙な紋。

髪結床の看板はねじれていて、熱いからうめろというので、合わせてねじ梅。

四人目は
「おめえだな、提灯をただくれるてえのは」
と、最初からもらったも同然というずうずうしさ。

この男のが長い。
「算盤の掛け声が八十一で、商売を始めて、もうかったが持ちつけない銭を持って、急に道楽を始めた。家に帰らないから嫁さんが意見がましいことを言う。なに言ってやんでえベラボウめ。男の働きだ。ぐずぐず言うならてめえなんぞ出ていけってんで、かみさんを離縁しちまった」
という紋。

謎解きは、八十一は九九、もうかったから利があり、これでくくり。かみさんが去っていったから、合わせてくくりざる。

出す提灯、出す提灯、みんなタダで持っていかれた提灯屋、もうなんとでも言ってきやがれ、とヤケクソ。

一方、町内は提灯行列。

そこへ、隠居までやってきた。

さあ、こいつが元締めかと、提灯屋はカンカン。

隠居、よりにもよって一番高い高張提灯がほしいと抜かす。しかも二つも家まで届けろというから、念がいっている。

「で、紋だが」
「ほうら、おいでなすった。鍾馗さまが大蛇を輪切りにして、仏壇の地震でもって、八十一が商売始めて、もうかってかみさんを離縁したって言おうてんだろう」
「落ち着きなさい。私の紋は丸に柏だ」
「うーん、元締めだけあって、無理難題を言ってきやがる。丸に柏、丸に柏と……あッ、わかった。すっぽんにニワトリだろう」

しりたい

提灯屋の集団

噺の中に「傘の印」とあるように、傘を合わせてあきなっているところも多く、その場合、傘の形をした看板に「ちゃうちん」と記してありました。より詳しくは「花筏」をお読みください。

もちろん、この噺でわかるように、紋の染物屋も兼ねた、三業種兼業のマルチ企業だったわけです。

判じ物

判じ物は、狭義では絵や文字から、隠された意味を解かせるもので、現在の絵解きパズルに当たります。単なるなぞなぞ、なぞかけを意味することもあり、この噺で持ち込まれる難題は、そちらに当たります。

江戸っ子はシャレ好きで、地口、なぞかけなど、さまざまなクイズを楽しみ、時には賭けの対象にしました。

代表的ななぞかけには、

宵越しのテンプラ→揚げ(=上げ)っぱなし 
金魚のおかず→煮ても焼いても食えない 
やかんの蛸→手も足も出ない

などがあります。「宵越しのテンプラ」などは、現在でもエスカレーターが上りだけで下りがないビルなどに使えそうですね。

『浮世断語』(三代目三遊亭金馬著、河出文庫から復刻)」はいちおしです。

江戸っ子学の宝庫で、こうしたなぞかけ、判じ物についてわかりやすく解説し、実例も豊富に載っています。

残る速記は五代目小さんのだけ

落語としては上方が本家で、東京に移植したのは三代目三遊亭円馬(橋本卯三郎、1882-1945、大阪→東京)と言われますが、はっきりしません。

円馬から四代目柳家小さん(大野菊松、1888-1947)を経て、五代目小さん(小林盛夫、1915-2002)に継承されました。現在、小さん一門を中心に演じられていますが、手掛ける者は多くはないようです。

速記、音源とも、長らく五代目のものだけでしたが、柳家小三治(郡山剛蔵、1939-2021)、三遊亭小遊三などのCDも出ています。上方では、露の五郎兵衛が演じていました。

発掘された原話

原話はずっと不明とされていましたが、武藤禎夫(1926-、東大→朝日新聞社→共立女子短大、近世舌耕芸)は、明和6年(1769)刊『珍作鸚鵡石』中の「難題染物」を原型としてあげています。

これは、提灯屋は登場しませんが、大坂・嶋の内に「難題染物」の看板を掲げる店があり、そこの主人が無類の囲碁好き。今日も友人と碁盤を囲んでいるときに「一つ足らん狐の一声」という紋の注文が来ます。わからずに考え込むと、友人が、「九曜の紋(大円の周りを八つの小円が囲む)なら十に一つ足らず、狐の一声なら『コン』で、合わせて紺の九曜」と、教えるというすじです。

紋を注文するのに、なぞかけで出すという趣向が、確かに「提灯屋」の原話と思わせる小咄です。

【語の読みと注】
鍾馗 しょうき
判じ物 はんじもの:謎かけ

スヴェンソンの増毛ネット

  成城石井.com  ことば 演目  千字寄席