落語と言えば、コレです。おまけつきの俳句で丁々発止のご隠居と八五郎。
別題:りん廻し[前半] 雪てん[後半]
【あらすじ】
長屋の八五郎が、横町の隠居の所に遊びに行くと、このごろ雑俳に凝っていると言う。
題を出して五七五に読み込むというので、おもしろくなって、二人でやり始める。
最初の題は「りん」。
隠居が
「リンリンと綸子(りんず)や繻子(しゅす)の振り袖を娘に着せてビラリシャラリン」
とやれば、八五郎が
「リンリンと綸子や繻子はちと高い襦袢(じゅばん)の袖は安いモスリン」
隠「リンリンとリンと咲いたる桃桜嵐につれて花はチリ(=散り)リン」
八「リンリンとリンとなったる桃の実をさも欲しそうにあたりキョロリン」「リンリンと淋病病みは痛かろう小便するたびチョビリチョビリン」
今度はぐっと風雅に「初雪」。
隠「初雪や瓦の鬼も薄化粧」
八「初雪やこれが塩なら金もうけ」
「春雨」では、八五郎の句が傑作。
「船端をガリガリかじる春の鮫」
隠居の俳句仲間が来て、この間「四足」の題で出されたつきあいができたという。
「狩人が鉄砲置いて月を見ん今宵はしかと(=鹿と)隈(=熊)もなければ……まだ天(最秀句)には上げられない」
と隠居が言うと八五郎、
「隠居さん、初雪や二尺あまりの大イタチこの行く末は何になるらん」
「うん、それなら貂(=天)だろう」
底本:初代三遊亭円遊ほか
【しりたい】
雑俳 【RIZAP COOK】
万治年間(1658-61)に上方で始まり、元禄(1688-1704)以後、江戸を初め全国に広まった付け句遊びです。
七七の題の前に五七五を付ける「前句付け」は、「めでたくもあり めでたくもなし」の前に「門松は 冥土の旅の 一里塚」と付けるように。
五文字の題に七七を付ける「笠付け」、五文字の題を折り込む「折句」などがあり、そこから、「文字あまり」「段々付け」「小倉付け」「中入り」「切句」「尽くし物」「もじり」「廻文」「地口」など、さまざまな言葉遊びが生まれました。
俳諧で、句を添削・評価する人を「点者」といい、雑俳では、天・地・人の三段階で判定します。
柳昇の十八番 【RIZAP COOK】
文化13年(1816)刊の笑話本『弥次郎口』中の「和歌」ほか、いくつかの小ばなしを集めてできたものです。
前半で切る場合は「りん廻し」といい、伸縮自在なので、前座噺としてもポピュラーです。
新作落語を得意とした、春風亭柳昇の数少ない古典の持ちネタの一つで、その飄逸な個性で十八番にしていました。柳昇がこの噺をやったときは、いつも爆笑の渦。あの高っ調子で鼻に抜けるような「ふなばたを……」は今も耳に残ります。
最後の「大イタチ……」の狂歌は「三尺の」となっている速記もありますが、大田蜀山人(1749-1823)作と伝わります。