【ありがた山の寒がらす】

ありがたやまのかんがらす

照れを含んだ感謝の意。「ありがたい」「ありがとう」と言っているだけ。

「ありがたやー」の言葉遊びです。

語尾の「や」から語呂合わせで「やま」、そこからの連想で「鳶」と「烏」を出しただけです。

「寒烏」には意味はありません。語調を整えているだけ。

「寒烏」の最初の形は「ほととぎす(時鳥、子規など)」だったそうです。

「ありがた山」も、最初は

ただ取る山のほととぎす

で流行しました。

その後は

待ちかね山のほととぎす

と、形を変えていきました。

さらには、「ありがた山」となってニュアンスを変えながら感謝の言葉になっていき、これが爆発的に流行したといいます。

ありがた山のほととぎす

「山の」の後付け部分だけでも、「桜」「二軒茶屋」「猫」「呑み込み山」「出来兼ね山」「鳶がらす」「豊心丹」などと、さまざまなバリエーションができました。

ありがた山のと(ん)びがらす

上のは、恋川春町こいかわはるまち金々先生栄華夢きんきんせんせいえいがのゆめ』に出てくるフレーズです。

ありがた山ざくら

ありがた山の二軒茶屋

ありがた山の猫

ありがた山のほうちんたん  

ありがた大和屋浜村屋

ありがた山吹色

「ありがた山」から「のみこみ山」や「のみかけ山」に変化したものも。

のみこみ山のほととぎす

のみかけ山

さらには、できかねる意味から「できかね山」も。

できかね山のほととぎす

さらには、

少しおぼえ山

こうなると原型をとどめていません。いくらでもつくれそうな気がしてきます。

しまいには、現代のおふざけ「蟻が十匹」(=ありがとう)まで、この系譜は続いていきます。

「ありがた山」は「有難山」と記すこともあります。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の第1回(2025年1月5日放送)のタイトルは「ありがた山の寒がらす」でした。

それ以降、蔦屋重三郎(横浜流星)はしょっちゅう連発しています。田沼意次(渡辺謙)は蔦重を「ありがた山」と呼ぶほどで、「ありがた山」は蔦重の代名詞にすらなっています。

「寒がらす」の季語は冬、「ほととぎす」の季語は夏。季節に応じて使い分けていたのでしょう。「ありがた山」は季節に左右されず。

江戸の人はおおむね、あらゆることばに「山」をつけてよろこんでいました。

さて。

その昔、大学の体育祭でのこと。

大学講堂の壇上では、ウェイトリフティングの競技が行われていました。誰がどれだけ持ち上げられるかという力自慢の、あれです。

この競技会は体育の授業の一環で、一般学生が参加するものでした。体育会系がやらかす職と金がからんだ鬼気迫る真剣勝負ではありません。

壇上では、体重150kgもあろうかという、肥満を抱えた理工学部の男子学生がのっそり。100kgのバーベルをうんとこやっとこ持ち上げたのです。

ふつう、人は自分の体重分のバーベルは持ち上げられる、とのこと。それにもとづけば、この学生は150kgほどを持ち上げられるはず。100kgなんて、まだまだ。

そんな杓子定規はどうでもよく。

でぶちんが鉄塊を押し上げた光景はすてきでした。

割れんばかりの拍手喝采。と同時に、「いいぞー、肉山くーん!」の一声が響きました。

会場は大爆笑。ウケた。

むろん、肥満学生くんが、「肉山」姓でも精肉店のせがれでもなかったはずです。

贅肉ぷりぷりの、およそスポーツとは無縁そうな巨体が100kgのバーベルを力技で押し上げたことからの、その意外な光景と、ふいに頭をよぎった称賛の発露とが合体して口を衝いて出た、野次馬学生の稚拙な連想に過ぎなかったのでしょう。

わかりやすい発想です。誰もが笑えた。

むだぐち(通言、洒落)が生まれる場面は、およそ、とっさのひらめきが突き上げる神韻なのですね、きっと。

ひるがえって。

「ありがた山の寒がらす」も、かつてはそんな状況から生まれた、珠玉の瞬間芸だったのではないでしょうか。


成城石井

落語あらすじ事典 千字寄席編集部

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