【雍歯封侯】

ようしほうこう


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部下をなだめ安心させるためにはまず嫌いな者を抜擢すること。そういう意味です。

前漢の高祖(劉邦)の頃。劉邦が項羽を倒した直後のこと、紀元前202年あたりのことでしょうか。

高祖が落陽の南宮から見下ろすと、広い砂庭のあちこちで諸将群臣がひそひそ話をしているようすが気になりました。

高祖は張良にたずねます。

張良「謀反の相談をしているのです」
高祖「なぜだ」
張良「陛下が侯に封ぜられたのは蕭何や曹参の直参ばかりで、誅罰されたのは外様の、陛下とあまり親しくなかった者たちです。いま宮中では諸将の功績を評定していますが、全員を賞するには天下の領土が足りません。そこで彼らは、自分たちは封ぜられるどころか、ひょっとして殺されるのではないかと恐れて、あのようにたむろしては、いっそのことやっちまうか、と謀反を相談しているのです」
高祖「ひえー。どうすればよいか」
張良「陛下がいちばん毛嫌いしていて、諸将もそれを知っている者は誰でしょうか」
高祖「そりゃ、雍歯だ」
張良「ならば、すぐに雍歯を侯に封じて、諸将にお示しください。さすれば、あの雍歯でさえ侯に封ぜられたのだから俺だって、と安堵することでしょう」

張良の言う通りに高祖が行ったら、諸将群臣は落ち着きました。

結局、「雍歯封侯」は「部下をなだめ安心させるためにはまず嫌いな者を抜擢すること」の意味で使われます。

とはいえ、この四字熟語が載っている辞典はめったにありません。実際にはあまり使われていないのでしょう。過去40年の読売新聞の記事中、一度も使われていません。記者が知らないでしょうし。これは無理。でも、この故事はとても興味を引きますね。

諸将が広い砂庭でひそひそ話するのは「沙中偶語」という成語として残っています。「臣下が謀反の相談をすること」という意味です。そのまんまです。これについてはいずれまたの機会に。

出典:『史記』高祖本紀、『史記』留侯世家


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落語あらすじ事典 千字寄席編集部

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