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【お直し】

おなおし


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【どんな噺】

吉原育ちで外知らずの男女。
切羽詰まって後ろめたい商売を。
辛くて悲しいのになぜか大笑い。

★★

あらすじ

盛りを過ぎた花魁と客引きの若い衆が、いつしか深い仲に。

廓では「同業者」同志の色恋はきついご法度。

そこで隠れて忍び逢っていたが、いつまでも隠し通せない。

主人に呼ばれ、
「困るじゃないか。おまえたちだって廓の仁義を知らないわけじゃなし。ええ、どうするんだい」

結局、主人の情けで、女は女郎を引退、取り持ち役の「やり手」になり、晴れて夫婦となって仲良く稼ぐことになった。

そのうち、小さな家も借り、夫婦通いで、食事は見世の方でさせてもらうから、金はたまる一方。

ところが、好事魔多し。

亭主が岡場所通いを始めて仕事を休みがちになり、さらに博打に手を染め、とうとう一文なしになってしまった。

女房も、主人の手前、見世に顔を出しづらい。

「ええ、どうするつもりだい、いったい」
「どうするって……しようがねえや」

亭主は、友達から「蹴転けころ」をやるように勧められていて、もうそれしか手がない、と言う。

吉原の外れ、羅生門河岸で強引に誰彼なく客を引っ張り込む、最下級の女郎の異称。

女が二畳一間で「営業」中、ころ合いを見て、客引きが「お直し」と叫ぶと、その度に二百が四百、六百と花代がはねあがる。

捕まえたら死んでも離さない。

で、
「蹴転はおまえ、客引きがオレ」

女房も、今はしかたがないと覚悟するが、
「おまえさん、焼き餠を焼かずに辛抱できるのかい」
「できなくてどうするもんか」

亭主はさすがに気がとがめ
「おまえはあんなとこに出れば、ハキダメに鶴だ」
などとおだてを言うが、女房の方が割り切りが早い。

早速、一日目に酔っぱらいの左官を捕まえ、腕によりをかけてたらし込む。

亭主、タンカを切ったのはいいが、やはり客と女房の会話を聞くと、たまらなくなってきた。

「夫婦になってくれるかい?」
「お直し」
「おまえさんのためには、命はいらないよ」
「お直し」
「いくら借金がある? 三十両? オレが払ってやるよ」
「直してもらいな」

客が帰ると、亭主は我慢しきれず、
「てめえ、本当にあの野郎に気があるんだろ。えい、やめたやめた、こんな商売」
「そう、あたしもいやだよ。……人に辛い思いばかりさせて。……なんだい、こん畜生」
「怒っちゃいけねえやな。何もおまえと嫌いで一緒になったんじゃねえ。おらァ生涯、おめえと離れねえ」
「そうかい、うれしいよ」
とまあ、仲直り。

むつまじくやっていると、さっきの酔っぱらいがのぞき込んで、
「おい、直してもらいねえ」

底本:五代目古今亭志ん生

成城石井

しりたい】

蹴転 

けころ。吉原に限らず、江戸の各所に出没していた最下級の私娼の総称です。

「蹴転ばし」の略。「蹴倒し」ともいいました。すぐに寝る意味で、そういう意がこめられたうえでの最下級なのですね。

泊まりはなくて百文一切り、所要時間は今の時計で10分程度だったといいます。

10分では短すぎるので、たいていの客は改めて延長を希望します。これが「お直し」です。

裏路地の棟割り長屋のような粗末な木造の、4尺5間の間口、2尺の戸、2尺5寸の羽目板、3尺の土間、これら全部含めても2畳ほどの狭い部屋で商売をするのです。

「切り見世」「局見世」と呼ばれていました。

吉原にかぎらず、岡場所にはあったものですが、吉原で蹴転は、お歯黒どぶ(囲いの下水)の岸にあったので、「河岸見世」と呼ばれていました。

吉原の蹴転は寛政年間(1789-1801)にはもう絶えたようです。寛政改革では吉原が大打撃をこうむっていますから、そのさなかにつぶされていったのですね。

切り見世は突き放すようにいとまごい

お直しを食らい素百のさて困り

銭がなけよしなと路地へ突き出され

羅生門河岸

つまり吉原の京町二丁目南側、「お歯黒どぶ」といわれた真っ黒な溝に沿った一角を本拠にしていました。

「羅生門」とは、蹴転が客の腕を強引に捕まえ、放さなかったことから、源頼光四天王の一人、渡辺綱が鬼女の隻腕を斬り落とした伝説の地名になぞらえてつけられた名称とか。

「一度つかんだら放さない」というニュアンスが込められているのがミソです。

こわごわとしたかんじがしますね。

表向きは、ロウソクの灯が消えるまで二百文が相場ですが、それで納まるはずはありません。

この噺のように、「お直し、お直しお直しィッ」と、立て続けに二百文ずつアップさせ、結局、客をすってんてんにひんむいてしまうという、ライトな魔窟だったわけです。

おすすめは

この噺は、五代目古今亭志ん生(美濃部孝蔵、1890.6.5-1973.9.21)が復活させ、昭和31年度(1956)の芸術選奨を受賞しました。全部で4種類の音源が出ています。

①昭和33年(1958)9月19日、地方ラジオ局に配信された電通音源。ポニーキャニオン『五代目古今亭志ん生名演大全集』第19巻POCG-00711、キング『古今亭志ん生で聴く江戸落語 やきもちやき』KICH-3255、ユーキャンクラブの12枚組みセット物『ザ・ベリー・ベスト・オブ志ん生』第8巻OCD-43008など。この音源は昭和31年(1956)12月28日のものとされていましたが、それは誤りだったということが、今では明らかなのだそうです。倒れる前のもの。

②昭和38年(1963)5月31日の東宝名人会での音源。ビクター伝統文化振興財団『ビクター落語 五代目古今亭志ん生』第20巻。

③昭和41年(1966)6月6日、朝日生命ホールでの収録音源。6月12日、TBSラジオで放送。テイチク『花形落語特撰 古今亭志ん生』TECR-20019、ビクター『スーパー落語1500 古今亭志ん生2』VICG-15065の2種で聴けます。

④不明音源。講談社『志ん生復活! 落語大全集』第10巻収録。

志ん生亡き後は、次男の三代目古今亭志ん朝(美濃部強次、1938.3.10-2001.10.1)がさらに磨きのかかった噺にこさえました。

ほかには、七代目立川談志(松岡克由、1935-2011)も。

現役では五街道雲助。ダントツです。古今亭系ならではの話芸を惜しみなく聴かせてくれます。

【語の読みと注】
蹴転 けころ:最下級の商売女性
一切り ひときり:一段落
切り見世 きりみせ:蹴転がいる場所
局見世 つぼねみせ:蹴転がいる場所
河岸見世 かしみせ:吉原の蹴転がいる場所
素百 すびゃく:百文ぽっきり

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落語あらすじ事典 千字寄席編集部

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