Categories: 落語演目

【蔵前駕籠】

くらまえかご

成城石井

【どんな噺】

維新間際。
駕籠客狙う追い剥ぎの一党が。
すさんだ世情も
落語にかかれば、ほら。

★★

成城石井

あらすじ

ご維新の騒ぎで世情混乱を極めているさなか。

そんなあわただしさの中、慶応四年は明けた。

三日は鳥羽伏見の戦い。

江戸では、神田・日本橋と吉原を結ぶ蔵前通りに、夜な夜な追いぎが出没した。

それも十何人という徒党を組み、吉原通いの、金を持っていそうな駕籠かご客を襲って、氷のような刃を突きつけ
「我々は徳川家にお味方する浪士の一隊。軍用金に事欠いておるので、その方に所望いたす。命が惜しくば、身ぐるみ脱いで置いてゆけ」
と相手を素っ裸にむくと
「武士の情け。ふんどしだけは勘弁してやる」
「へえ、ありがとうございます」

こんなわけで、蔵前茅町くらまえかやちょう江戸勘えどかんのような名のある駕籠屋は、評判にかかわるので暮れ六ツの鐘を合図に、それ以後は一切営業停止。

ある商家のだんな。

吉原の花魁おいらんから、ぜひ今夜来てほしいとの手紙を受け取ったため、意地づくでも行かねばならない。

そこで、渋る駕籠屋に掛け合って、
「追いはぎが出たらおっぽり出してその場で逃げてくれていい、まさか駕籠ぐるみぶら下げてさらっていくことはないだろうから、翌朝入れ物だけ取りに来ればいい」
と、そば屋にあつらえるようなことを言い、駕籠賃は倍増し、酒手は一人一分ずつという条件もつけてようやく承知させる。

こっちも支度があるからと、何を思ったかだんな、くるくるとふんどし一つを残して着物を全部脱いでしまった。

それをたたむと、煙草入れや紙入れを間に突っ込み、駕籠の座ぶとんの下に敷いてどっかと座り、
「さあ、やれ」

駕籠屋が
「だんな、これから風ェ切って行きますから寒いでしょう」
とからかうと、
「向こうにきゃ暖め手がある」
と変なノロケを言いながら、いよいよ問題の蔵前通りに差しかかる。

天王橋てんのうばしを渡り、前方に榧寺かやでら門前の空地を臨むと、なにやら怪しい影。

「だんな、もう出やがったあ。お約束ですから、駕籠をおっぽりますよっ」
と言い終わるか終わらないかのうちに、ばらばらっと取り囲む十二、三人の黒覆面。

駕籠屋はとっくに逃げている。

ぎらりと氷の刃を抜くと、
「我々は徳川家にお味方する浪士の一隊。軍用金に事欠いておるのでその方に所望いたす。命が惜しくば……これ、中におるのは武家か町人か」

刀の切っ先で駕籠のすだれをぐいと上げると、素っ裸の男が腕組み。

「うーん、もう済んだか」


成城石井

しりたい

江戸の駕籠

蔵前茅町の江戸勘、日本橋本町にほんばしはしもとちょう赤岩あかいわ芝神明しばしんめい初音屋はつねやを、江戸三駕籠屋と称しました。

江戸勘と赤岩は吉原通い、初音屋は品川通いの客が多く利用したものです。これを宿駕籠しゅくかごといい、個人営業の辻駕籠つじかごとは駕籠そのものも駕籠舁かごかきも、むろん料金も格段に違いました。

駕籠にランクあり

駕籠にもランクがありました。上から、宝仙寺ほうせんじ、あんぽつ、四ツ手の順で分かれていました。

① 宝仙寺駕籠 小大名や富裕町人用 裃で乗る 宝仙寺御免駕籠の略

② あんぽつ 竹製の駕籠 町人用 引き戸

③ 四ツ手駕籠 四本の竹を柱にする 庶民用 すだれはむしろ(垂れ駕籠)

ルーツは今昔物語

いかにも八代目林家正蔵(岡本義、1895.5.16-1982.1.29、→彦六)が得意にしていた、噺しくて地味で小味こあじな一編です。

原話は古く、平安末期成立の説話集『今昔物語こんじゃくものがたり』巻二十八中の「阿蘇あそさかん、盗人にあひて謀りて逃げし語」です。

ちなみに、「史」は令制りょうせい四等官しとうかんの最下位「主典さかん」をさします。

時代が下って安永4年(1775)刊の笑話集『浮世はなし鳥』中の「追剥おいはぎ」では、駕籠屋の方が気を利かせてあらかじめ客を裸にし、大男の追い剥ぎが出るや「アイ、これはもふ済みました」と、すでに蔵前駕籠と同じオチになっています。

榧寺門前

榧寺かやでらは現在の台東区蔵前3丁目、池中山盈満院正覚寺じちゅうざんようまんいんしょうがくじのことです。浄土宗で、芝の増上寺に属します。

昔、境内に榧の大木があったので、この名が付いたといわれます。その榧の木は、秋葉山の天狗が住職と賭け碁をして勝ち、そのかたに実を全部持って行ったために枯れ、その枯れ木で天狗の木像を刻んで本尊としたという伝説があります。

江戸時代は水戸街道に面し、表門から本堂までかなり長かったといいます。

演者は

四代目橘家円蔵(松本栄吉、1864-1922、品川の)のおはこでした。それが、六代目三遊亭円生(山﨑松尾、1900.9.3-79.9.3、柏木の)と八代目林家正蔵(岡本義、1895.5.16-1982.1.29、→彦六)に伝わりました。

五代目古今亭志ん生(美濃部孝蔵、1890.6.5-1973.9.21)、三代目古今亭志ん朝(美濃部強次、1938.3.10-2001.10.1)も。

成城石井

落語あらすじ事典 千字寄席編集部

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