Categories: 落語演目

【牛の嫁入り】

うしのよめいり

【どんな?】

今度の与太郎はちょいと知恵が働くんですが、それがまた一騒動の素。

別題:おたおたの太助(上方)

【あらすじ】

小伝馬町の質屋の娘。

年ごろになるが、なかなかの器量よしで、その上、芸事は絵から俳諧、歌はおろか、弓馬、槍剣の道まで心得ているという噂の高い才女。

一人娘なので、そろそろ養子を迎えなければならず、孝行者なので、早くいい婿が見つかって両親を安心させたいと、向島の牛の御前に願掛けをして日参している。

町内の若い衆の噂を聞きつけた、本所松坂町に住む紙くず拾いの与太郎。ほかの与太郎とは少々違って頭が冴えているので、女をなんとかして手に入れてやろうと、牛の御前に先回りし、麻の風呂敷をかぶって頭にお椀を乗っけ、笏代わりにシャモジを手に持って、娘が来るのを待った。

なにも知らない娘、いつものように社前に立ち、賽銭をあげて柏手を打つ。

「なにとぞ私によい御養子をお授けください」
と熱心に祈る。

そこへ与太郎が賽銭箱の間からスクッと立ち上がり
「ああ、これ、我こそは牛の御前なり。その方は親孝行なるに感じ、利益によって養子を一人授けるなり」

娘は仰天。

願いがかなえられたと大喜びで
「ありがたいことでございます。そのご養子はどこのお方でしょう」
「本所松坂町紙くず拾いの与太郎と申す者なり。この者は粋でりっぱでちゃんとして、東男のぬしさんに惚れたが無理かションがいな、あーら疑いあるべからず」

たちまち娘は、このまだ見ぬ男に恋わずらい。

親には恥ずかしくて言いだせないから、悶々としたまま床につき、食事も喉へは通らない。

心配しただんな、乳母をやってようやく聞き出すと、かわいい娘のためと、さっそく番頭の久蔵を呼び、その「本所松坂町の古紙回収業の与太郎さんは粋で立派でちゃんとして、東男の主さんに惚れたが無理かションがいな、あーら疑うべからず」という寿限無並みに長い名前の男に会ってこいと命じる。

久蔵が見ると、えらく汚い男なのでがっかりしたが、当人がそうだというのだから間違いはなかろうと、帰ってだんなに報告した。

だんな、それは身なりでなく人柄がいいのだろうと、「あーら疑うべからず」を婿にすることに決めたが、娘の体がまだよくないから、車では揺れてだめだと、長持ちに空気穴を空けて、夜具一式と一緒に娘を入れ、大勢だと評判になるから、善兵衛と喜助の二人に担がせて、松坂町に送り届けることにした。

二人が途中の牛屋で一杯やっている間に、本所の牛方が子牛をひいて通る。

牛屋の前に下ろしてある長持ちの中からうめき声がするので、のぞくと娘っ子が入っている。

これは人さらいだと早合点して、娘を引っ張り出すと、身代わりに子牛を入れ、娘を連れて行ってしまった。

すっかりできあがった二人。

長持ちを与太郎の家に届けると、すぐ帰ってしまったので、与太郎はゾクゾクしながら中をまさぐる。

えらく臭くて太った娘だと思って別の所を触ると、そこが子牛の尻尾。

「ウーン、大変に長い髪だ。大方下げ髪で来たんだろう」

底本: 初代三遊亭円遊

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【しりたい】

民話の落語化か

東京バージョンのこの「牛の嫁入り」は、明治23年(1890)の初代三遊亭円遊(竹内金太郎、1850-1907、鼻の、実は三代目)の速記が残るのみ。今はすたれた噺です。

もともと上方落語の「おたおたの太助」を東京に移したものといわれますが、この元ネタ自体、オチが円遊版と同じという以外、今では詳細がまったくわからなくなっています。

したがって、原話も、東京に伝わった経緯・時期も不明です。

ただ、民話に同じ題名のものがあるため、上方のものも含め、ルーツはやはり民話や昔話にあると思われます。

類話「お玉牛」

娘と牛が寝床ですりかわるという後半の筋と似ているのが、現在でも上方で口演される「お玉牛」です。

これは、武士の娘お玉が、父親が悪人に陥れられたため父娘で都落ちし、紀州と大和の国境の堀越村へ流れ着きますが、土地の乱暴者あばばの茂平に強引に言い寄られ、今夜にも夜這いをかけられるハメに。お玉の訴えを聴いた世話人の与次兵衛が機転で、その夜、お玉の寝床に牛を寝かせておいたので、何も知らず、舌なめずりで忍んできた茂平は牛に抱きつき、肝をつぶして逃げ出します。オチは「どや、お玉をうんと言わしたか」「いや、モーと言わした」というものですが、これも民話ダネとみられるので、「おたおたの太助」や「牛の嫁入り」とルーツは同じでしょう。

こちらは、古くは東京でも同題で後半のみを、上方通りに演じたこともあったようです。

違ったやり方も

現在は東京では演じられず、また、円遊以後の演者についてもはっきりしませんが、古いやり方としては、娘ではなく父親が願掛けして与太郎の化けた神の「御託宣」を開くやり方もあったといいます。

驚いた与太郎が大家の家に逃げ込み、「暗闇から牛を引っ張り出しました」とするオチや、舞台を亀戸天神(与太郎も天神に化ける)にしていた演者も。

牛の御前

正式には牛島神社で、墨田区向島1丁目の隅田公園内に移されています。関東大震災の焼失前は、向島5丁目の墨堤常夜灯下にありました。牛の御前は祭神のスサノオノミコトのことです。

小伝馬町

中央区日本橋小伝馬町。時代劇でもよく知られた小伝馬町大牢のあった町ですね。

【語の読みと注】
牛の御前 うしのごぜん:牛島神社
笏 しゃく
賽銭 さいせん

落語あらすじ事典 千字寄席編集部

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