とよたけや【豊竹屋】演目

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上方噺の音曲噺。「豊竹豆仮名太夫」だった六代目円生がやっていました。

【あらすじ】

下手の横好きで、義太夫に凝っている豊竹屋節右衛門という男。

なんでも見聞きしたものをすぐ節をつけて、でたらめの義太夫にしてしまうので、かみさんはいつも迷惑している。

あくびにまで節をつける始末。

朝起こされると
「おとといからの寝続けに、まだ目がさめぬゥ、ハァ(と欠伸して)、あくびィ、かかるところに春藤玄蕃、くび見る役はァ、まつおうまるゥ」
と、さっそく「寺子屋」をひとうなり。

あちこち飛んで、
「その間遅しとォ、駆けいるお染、逢いたかったァ……」
と野崎村に変わったと思うと
「武田方の回し者、憎い女と引き抜いてェ」
と「十種香」になり、いつの間にか
「母の皐月がァ、七転八倒ォ、やややややァッ」
と「太功記」十段目・尼崎の場。

「ちちちちちっつん、つんつん、巡礼姿の八右衛門、後に続いて八幡太郎、かっぽれかっぽれ甘茶でかっぽれェ」
と、しまいにはなんだかわからない。

朝飯になると、碗の蓋を取るなり
「ちちん、お碗の蓋ァ、開くゥればァッ、味噌汁八杯豆腐、煮干の頭の浮いたるはァ、あやしかりけるゥ、ぶるるるッ」
と、興奮して蛮声を張り上げ、お膳を引っくり返す騒ぎ。

そこへ訪ねてきた男、これまた
「てん、ちょっとお尋ね申します、豊竹屋節右衛門さんンンは、こちらかええッ」
と、妙な節回し。

同類が現れたと、かみさんは頭を抱える。

この男、浅草三筋町三味線堀に住む花林胴八といって、でたらめの口三味線を弾くのが好きという、負けず劣らずの義太夫狂。

節右衛門の噂を聞いて、手合わせしたいと訪ねてきたもの。

三味線とはちょうどいいと、かみさんの渋い顔もどこ吹く風、節右衛門は大喜び。

さっそく二人の「競演」が始まった。

隣のお婆さんが洗濯する音が聞こえると
「ばあさァんせんだあくゥ、ううゥゥゥ」
「は、じゃっじゃっじゃっじゃじゃ。しゃぽォん」
「にじゅうごにちのォ、ごォえェんにィち」
「はっ、てんじんさん」
「ちんをふったわァ、ごォみィやァ、かァえ」
「ハッ、ちりちりん、ちんりんちんりん、ちりつんでゆくゥ」
「うまいッ。きょねんのくれのォ、おォおみォそおか、米屋と酒屋に責められェ、てェ」
「てんてこまい、てんてこまい」

いよいよ乗ってきて、
「子供の着物を親が着てェ」
「ハッ、つんつるてん」
「そばに似れどもそばでなくゥ、うどォんに似れども、うどんでなく、酢をかけ蜜かけたべェるのは」
「とォころてん、かァんてん」
「おなかこォわァしてェ、かよォうのォはッ」
「せっちんせっちん」
と、やっていると、棚から鼠が三匹。

「あれあれ、むこうの棚に、ねずみが三ついでてむつまじィく、ひとつのそなえをォ、引いてゆゥく」
と、節付けすると、鼠まで節をつけて
「チュウチュウチュウチュウ」

「いやあ、節右衛門さんとこのねずみだけあって、よく弾き(=引き)ますな」
「いやあ、ちょっとかじるだけで」

底本:六代目三遊亭円生

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【しりたい】

貴重な音曲噺

原話は不詳ですが、貞享4年(1687)刊の笑話本『はなし大全』中巻ノ二の「口三味線」がそれらしき原型のようです。大坂で、天保年間(1830-44)から口演されてきた、今に残る貴重な音曲噺です。いつ、だれが東京に移植したかは、不明です。演題は、浄瑠璃の一派で、豊竹越前少掾(1681-1764)が享保16(1731)年に創始した豊竹派をもじったものです。

円生の十八番

義太夫の素養がなくてはできないため、戦後、音曲噺がすたれてからは、幼時「豊竹豆仮名太夫」を名乗って義太夫語りだった、六代目三遊亭円生の独壇場でした。

円生は最晩年、まるで後継者を捜し求めるように頻繁にこの噺を高座に掛け、国立劇場のTBS落語研究会(1978年12月26日)を始め、残された音源は11種、CDは6種という、ちょっとした記録です。入船亭扇橋、林家正雀、古今亭志ん輔など、手掛ける人が出ました。

円生の工夫

円生の芸談によると、昔は現行の話の前に、節右衛門が湯屋で義太夫をうなりすぎてふらふらになる場面がつくこともあったといいます。東京でも、柳派はこのやり方でした。円生は、口三味線で胴八が洒落る場面で「隣のじいさん抱き火鉢」「たどん」とやっていたのを婆さんの洗濯に変えています。

通じないオチ

「ちょっとかじるだけ」というオチは、人形浄瑠璃の符丁で三味線を弾くことを「かじる」と呼んだことから。もう現在では、よほどの文楽マニアでないと通じないでしょう。

義太夫四題 

噺の中で披露される演目は、いずれも今日、文楽、歌舞伎のレパートリーとして著名なものですが、複数の浄瑠璃の登場人物が、入り乱れてごたまぜで現れるのが落語の落語たるところで、こういう滑稽は「五目講釈」にも登場します。

「寺子屋」は『菅原伝授手習鑑』の四段目の切です。松王丸は、大宰府に流罪となった旧主・菅丞相(菅原道真)の一子・菅秀才の命を救うため、わが子を身代わりに立てる悲劇の人物。春藤玄蕃は、菅秀才の首実験のため派遣される役人で敵役。おやじが流罪なのに縁座の子供が打ち首という摩訶不思議な芝居。

「野崎村」は、世話浄瑠璃『新版歌祭文』全二段の上の切。

「十種香」は、『本朝二十四孝』四段目の中で、長尾謙信の息女八重垣姫が、恋する武田勝頼の回向に香を焚く場。

八右衛門は『恋飛脚大和往来』(近松門左衛門)の新口村の段の登場人物。八幡太郎義家は『奥州安達原』(近松半二)の登場人物。町人と武将がごちゃまぜに出る混乱ぶりです。

三味線堀

台東区小島一丁目にあった堀。形が三味線に似ていたことからこう呼ばれました。寛永7年(1630)、鳥越川の掘削によってできたもので、閑静な景勝地でした。戦後、川も堀も無残に埋め立てられ、今は跡形もありません。

フィクションでは、昭和37年(1962)の東映映画『怪談三味線堀』の舞台となったほか、『その男』(池波正太郎)の主人公、剣客の杉虎之助が生まれ育った地でした。

花林胴八

カリン(マルメロ)の木で三味線の胴を作ることから、それをもじった名です。

【語の読みと注】
新口村 にのくちむら
花林胴八 かりんどうはち

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