団子兵衛 だんごべえ 演目

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現在ではあまりやられることのない、珍しい噺です。

別題:団子兵衛芝居(上方)

【あらすじ】

七代目市川団十郎の弟子で、下回り役者の団子兵衛。

連日芝居のハネ(終幕)が遅く、その上師匠の雑用もあって帰りが遅い。

長屋では火の用心のため、四ツ(十時過ぎ)には木戸を閉めてしまうので、毎晩大家を起こして開けてもらわねばならず、肩身が狭い。

大家の方も度重なると機嫌が悪くなり、地主がおまえのところを倉庫に使いたいと言っていると、とうとう店だてを食わされる。

困った団子兵衛は、大家の子供に菓子をやったりしてお世辞を使い、その上、自分はこれでも師匠の団十郎と肩を並べる役者で、来月共演するとうそをつき、ようやくかんべんしてもらった。

大家はふだんから芝居など見ない堅物だが、
「そんなにえらい役者なら、どんな役をするのだろう」
と見たくなり、とうとう一張羅の羽織を着込んで見物に出かける。

出し物は、『桜姫東文章』で「清水清玄庵室の場」。

当然、主役だと思うから、清玄か桜姫か釣り鐘権助かと目をこらすが、団子兵衛はいっこうに現れない。

そのうち狂恋の清玄が桜姫を手ごめにしようとし、奴淀平に殺されて化けて出る見せ場。

淀平が花道に行きかかると
「奴め、やらぬ」
と斬られ役の雲助が出てくるが、それがお待たせの団子兵衛。

淀平に投げられて四つんばいになり、背中に足を乗せて踏みつけられる。

ヒョイと顔を上げると、土間の客席に大家。

「おや、団子兵衛さん」
「大家さん、今夜も木戸をお願いします」

【しりたい】

原話は「情けがあだ」

六代目桂文治(明治44年没)の、明治31年(1898)9月『百花園』掲載の速記が残ります。

芝居ばなしを得意にした人なので、後半の「清玄庵室の場」は、殺し場と、清玄が化けるシーンの長ゼリフをそっくり再現。本格的な怪談仕立てで演じました。

原話は安永2年(1773)刊『俗談口拍子』中の「雪の中の大家」。これは、落語と少しニュアンスが異なります。

独り者が毎晩遊びに出歩き、その都度深夜に木戸をたたくのを気兼ねして、路地の塀を飛び越えて長屋に入ります。大家は粋なところを見せ、「遠慮して塀など越えずに、何度でもたたくがいい。開けるのは大家の役だ」。男は喜んで調子に乗り、毎夜毎夜ドンドンドン。しまいには大雪の夜、寝入りばなをまたドンドン。大家、頭にきて、「ええい、今夜だけは飛び越えろい」。

きゃいのう

下回り役者の悲喜劇を扱った噺には「淀五郎」「武助馬」などがありますが、昭和初期に柳家金語楼(1901-72)が創作した「きゃいのう」は、別題が同じ「団子兵衛」で、この噺をヒントに作られたものです。

下回り役者が、腰元の渡りゼリフ、A「もっとそっちに」B「行」C「きゃいのう」の、Cの「きゃいのう」だけを与えられますが、カツラにたばこの吸い殻が入ったのに気づかず、A「もっとそっちに」B「行」C「うーん、熱いのう」で、オチになります。

現在では、オリジナルの「団子兵衛」ともども、ほとんど聞かれなくなりました。上方では同じ筋で、「団子兵衛芝居」といいます。

放浪の団十郎

七代目市川団十郎(1791-1859)は、江戸後期から幕末にかけての名優です。芸風は写実に富み、能の様式を歌舞伎に取り入れた「勧進帳」を始めとする市川家の家の芸「歌舞伎十八番」を設定しました。天保の改革で、生活がぜいたくに過ぎるという理由で江戸を所払いに。長男に八代目を譲って、海老蔵、白猿などの芸名で上方や名古屋の舞台に立ちました。九代目団十郎(1838-1903)は七代目の妾腹の五男です。明治の名優として名を馳せました。

ペーペー役者の悲哀

役者の身分については「中村仲蔵」をご参照ください。この噺の団子兵衛の身分は、明治以後で新相仲、旧幕時代では下立役で、役者の最下級。通称を稲荷町。楽屋稲荷が祭られる大部屋に雑居するのでこの名がついたといわれますが、諸説あります。

いずれにしても、大歌舞伎にいるかぎり、馬の脚から出発して、生涯せいぜい、この噺のようなその他大勢の斬られ役や、捕り手の役しかつかない下積みで終わります。

桜姫東文章

『桜姫東文章』は四世鶴屋南北作の歌舞伎世話狂言で、文化14(1817)年3月、河原崎座初演。

鎌倉新清水寺の僧清玄が、吉田家の息女桜姫に邪恋を抱いて破戒。寺を追放された後、ストーカーとなって執拗に桜姫につきまとい、忠義の奴淀平に殺されても、なおも怨霊と化して姫に取り憑くという筋。

現在でも坂東玉三郎らによって、しばしば上演される人気狂言です。

【語の読みと注】
新相仲 しんあいちゅう
桜姫東文章 さくらひめあずまぶんしょう

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