しちだんめ【七段目】落語演目

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どんな?

生活すべてが芝居の調子。マニアっていうやつは、いつの時代も……。

あらすじ

若だんなが常軌を逸した芝居マニアで、家業そっちのけ。

四六時中芝居小屋に入り浸り、何をやっても芝居のセリフになってしまう。

今日も朝から帰らないので、だんなが番頭に愚痴をこぼしている。

「今日という今日はみっちり小言を言います」とカンカンに怒るのを番頭がなだめているところへ、当の若だんなが意気揚々とご帰還。

しかっても蛙のツラに何とやらで「遅なわりしは拙者が不調法」と忠臣蔵・三段目の判官気取り。

あきれ果てて二階へ追い払うと、早速「とざい、とーざーい」と金切り声を張り上げる。

閉口しただんな、小僧の定吉に止めてこいと命じたが、定吉も悪のりして「やあやあ若だんな、芝居の真似をやめればよし、いやだなんぞとじくねると、とっつかめえて……」と忠臣蔵・道行の鷺坂伴内のパロディー。

これが逆効果で、若だんなは仲間ができたと大喜び。

一緒に芝居をやろうと聞かない。

定吉ももともと芝居狂なので、とうとう乗せられ、忠臣蔵・七段目・茶屋場の平右衛門とお軽の場面を二人でやる羽目に。

やるからには衣装を整えようと若だんな、赤い長襦袢と帯のしごき、手拭いの姉さんかぶりで定吉に女装させたのはいいが、平右衛門の自分が丸腰ではと、床の間の本身の刀を持ち出したから定吉は驚いた。やめると言うのを、決して抜かないからと、刀の鯉口をコヨリで結んでやっとなだめすかす。

足軽の平右衛門が、妹・お軽が仇討ちの大事を知ったことを悟り、秘密露顕を恐れて、自分の手で始末しようと決心するところで、だんだん若だんなの目がすわってきたので、定吉はびくびく。

とうとう恐れていた事態。

「あなた、抜いちゃいけませんったらッ」

もう何も耳に入らない若だんな、コヨリをあっという間にぶっちぎり「妹、こんたの命ァ、兄がもらったッ」

抜き身を振り回すからたまらない。

定吉、逃げる拍子に階段からゴロゴロゴロ。

「おい、定吉、しっかりしろ」「ハア、私には勘平さんという夫のある身」
「馬鹿野郎。小僧に夫があってたまるか。変な格好をして、さては二階であの馬鹿と芝居ごっこをして、てっぺんから落ちたか」
「いえ、七段目」

しりたい

「忠臣蔵」のパロディー

全編、浄瑠璃・歌舞伎でおなじみの「仮名手本忠臣蔵」のパロディーです。

江戸、大坂のような都市部の人々なら、特にこの若だんなのような芝居狂でなくとも、芝居の「忠臣蔵」のセリフや登場人物くらいは隅々まで頭に入っていて、日常会話の一部にさえなっていました。

「とざい、とーざい」は「東西声」といい、「仮名手本忠臣蔵」開幕の前にからくり人形が観客に挨拶する掛け声。

定吉の「芝居の真似を……」は四段目の切、清元舞踊「道行旅路花婿」の道化敵・鷺坂伴内のセリフ、「やあやあ勘平、お軽をこっちへ渡さばよし、いやだなんぞとじくねると……」のもじりです。

騒動の元になる後半の大立ち回りは、七段目・祇園一力茶屋の場で、密書を読んで仇討ちの計画を知った遊女・お軽を、身請けの後に殺そうという大星由良之助(大石内蔵之助)の腹を、お軽の兄・寺岡平右衛門が察し、妹を手に掛けた手柄で、同志に加えてもらおうとする見せ場です。

ほかに登場する芝居

この噺でパロディーギャグに使われる芝居は、「忠臣蔵」以外は演者によって変わります。

若だんなが「菅原伝授手習鑑」・「車引」の「そのくるまァ、やァらァぬゥー」という決めゼリフで人力車を止めたり、おやじにぶたれて、「こりゃこのおとこの、生きィづらァをー」と、「夏祭」の団七のセリフでうなったりするギャグは、大方の落語家が入れますが、観客が歌舞伎をよく理解していないとウケません。

東西とも、芝居のクライマックスは、下座の鳴り物を使って、にぎやかに演じます。

「七段目」演者と演出

芝居ばなしの素養がないとできない噺で、先代三遊亭円歌、先代雷門助六などが軽妙に演じていました。

春風亭小朝、林家正雀などのレパートリーにもなっています。

大阪でも古くから演じられ、二代目立花家花橘が得意にしていたのを桂米朝が継承し、桂吉朝、桂文珍など後進に伝えてました。

最後のオチは、古い型では「七段目から落ちたか」「いえ、てっぺんから」と逆で、米朝はこの型でサゲていました。

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