むしがかぶる【虫が齧る】ことば

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急に産気づくこと。広義では、腹痛、時には歯痛全般を指します。

かつては、腹痛はすべて、腹中に入り込んだ悪い虫が暴れるからだと考えられたためで、志ん生の「疝気の虫」などもその同類です。

いくらなんでも、陣痛は「虫」の仕業ではないのですが、妊婦の苦悶の症状から、そう言われたのでしょう。「かぶる」は「齧る」で「かじる」の意味。

「ばかだね、こいつァ。お産婆さんが女郎買いに行くかい」
「女郎買いには行かないよ。虫がかぶったてえことを聞くとすぐきます」

          羽織(六代目三遊亭円生)

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にかい【二階】ことば

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お女郎屋の二階のこと。

吉原や岡場所などの遊郭で、普通は二階が客と女郎の対面、逢い引きに使われたのでこう呼ばれました。「二階の間男」「二階ぞめき」などは、これを当て込んでいます。

「二階をまわす」というのはやり手や若い衆の仕事のことで、二階に案内した客を取り持ち、世話をすることです。

「まわす」は運営する、取り仕切ること。

ついでに、古い東京言葉の「こどりまわし(小取り廻し)が悪い」というのは、仕事のやり方が下手で気が利かないという悪口で、遊郭の用語でした。

「おや、嫌ですよ。私は二階をまわす者で」
「なに、二階をまわす? この二階を?」

                        敵討札所霊験(三遊亭円朝)

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ちりからたっぽう【ちりからたっぽう】ことば

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ちりからは鼓、たっぽうは大鼓の擬音語。そこから、芸者を揚げてにぎやかで陽気なお座敷をこう言いました。「だいようき(大陽気)」も同義。

正岡容は『明治大正風俗語事典』で、鳴り物入りの座敷は吉原に限るので、新宿などの「岡場所」の遊郭にはない、という説を紹介しています。

本所の達磨横丁を出て、全盛の吉原へやってきたが、ちりからたっぽう大陽気、両側はもう万燈のようで……。 

                                 文七元結

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そくらをかう【嘱賂を飼う、惣鞍を支う】ことば

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そそのかす、けしかけるの意味。「そくら(嘱賂)」はけしかける、煽動する、悪知恵を授けること。

訛って「そこら」「そくろ」とも発音しました。語源はよくわかりません。単独に使われることはなく、「かう」は「飼う」で、古い用例で毒を盛ること。そこから転じて、耳によからぬ悪知恵などを吹き込むことを言いました。

おおかた誰か、そくらをかった奴があるのでございますが、私は少しも覚えがない。

       蝦夷錦古郷之家土産(三遊亭円朝)

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あいずり【相摺、相棒】ことば

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一蓮托生で悪事をする共犯者のこと。

芝居では特に、二人でゆすりに押しかける片割れをこう呼びます。

現代でも使われる「あいぼう(相棒)」の漢字を当て字に使う場合もありますが、同義の「尻押し」とともに、こちらは単に協力者の意味で、必ずしも悪事の共犯とは限りません。

もっとも有名な用例としては、河竹黙阿弥の有名な世話狂言「弁天小僧」の「浜松屋店先の場」です。

正体が露見した弁天小僧の「知らざあ言って…」の名乗りに続く相棒の南郷の「その相摺の尻押しゃあ…」という七五調のツラネ(続きゼリフ)があります。語源としては「あいづり(相吊)」または「あいづれ(相連)」が転じたものとされます。

押さえるとたんに、両方の頭からすっと引っこ抜いた。あいずりの長五郎ィ渡して、こいつがばらばらばらばらばらばらっと逃げ出したんで……。               

                        双蝶々(六代目三遊亭円生)

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しょうべん【小便】ことば

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売買などの約束を途中で破棄すること。

「小便組」とは、大金を取ってお妾さんになりながら、肝心な夜にわざと寝小便をして暇を取る(辞める)という手を使う悪辣な連中のこと。

尿瓶」に少し詳しく記しました。

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尿瓶 しびん 演目

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いまどきは「しびん」を知らない人もいるかも。

別題:しびんの花活け(上方)

【あらすじ】

田舎の侍が、道具屋をあさると、古いしびんを見つけた。

侍、これを花瓶と間違えて、
「明日国元に帰るが、土産物にしたいからぜひほしい」
という。

道具屋が
「それはしびんでございます」
と正直に言っても
「ああ、しびんという者が焼いたか」
と、いっこうに通じない。

そこで道具屋の安さん、このばかを一つ引っかけてやれと
「これは日本に二つとないものでございます。だんなさなのお目利きには感服いたします」
とおべんちゃらを並べ、
「五両」
と吹っ掛ける。

知らぬほど怖いものはなく、侍は
「安い」
と喜び、即金で買っていった。

花瓶と勘違いして、侍が宿で花をいけていると、知り合いの本屋があいさつに来て、
「それは小便をするしびんでございます」
と教えたから、さあ怒ったのなんの。

道具屋にどなり込み、
「手討ちに致すから首を出せ」
と刀の柄に手を掛けたから、安さんは真っ青になって震えた。

「病気の老母に、朝鮮人参という五両もする高い薬をのまさなければなりません。その金欲しさ、悪いこととは知りながら、ただのしびんを五両でお売りしました。母の喜ぶ顔を見ますれば、もうこの世に思い置くことはございませんから、その時まで命を預けてください」

もちろん、その場からドロンするつもりでのウソ八百。

侍は
「孝行のためとあらばさし許す」
と帰っていった。

おふくろなんぞ、もう三年前に死んでいる。

隣の吉つぁんが騒ぎを聞きつけてやって来て
「おい、首ゃあついているかい。それにしてもさすがはお侍、よく代金を返せと言わなかったな」
「それもそのはず。小便(売買契約破棄)はできねえ。しびんは向こうにある」

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【うんちく】

朝鮮人参

時代劇に登場する、高価な薬といえばこれ。享保年間(1716-36)に種子が朝鮮から渡来しました。根を乾燥したものが、漢方薬に用いられます。肝心の薬効は、強壮・健胃などで、疲労や虚脱、胃腸虚弱などに効果があるとされますが、むろん万能薬ではありません。

「仮名手本忠臣蔵」七段目の大星由良之助に、「人参のんで首くくるようなもの」というセリフがあります。これは、高価な人参を無理して手に入れて病人が回復しても、べらぼうな薬代の借金で結局は首をくくらなければならない、という皮肉で、ムダな骨折りという意味のことわざになっています。

この程度の薬でも町人にとっては「高嶺の花」で、江戸時代では事実上、無医、無薬同然、病気になればほとんどが「はいそれまでよ」だったわけです。

しびん

「しゅびん」ともいい、昔は陶製でした。

八代目桂文楽(黒門町の)も、マクラで説明しているのですが、江戸時代は瀬戸物屋で、たかだか20-25文が相場。

日用品なので、いくら侍でも知らないのはおかしいと言えなくはありませんが、現代同様、元来病人、老人の使うものなので、どこの家にもあるという品ではありませんでした。

文楽の隠れた十八番

三代目三遊亭円馬が、大阪在住中に仕込んだ上方落語「しびんの花活け」を東京風に直しました。円馬に芸を仕込まれた八代目桂文楽が直伝で継承、十八番の一つに仕立てたものです。文楽在世中は、東京ではほかにやり手はありませんでした。

本家の大阪では、橘ノ圓都(1883-1972)が持ちネタとし、道具屋は大坂の日本橋筋の露店、武士は鳥取藩士で演じました。

演題は、「こいがめ」と同様に汚いので、「花瓶」で演じられることもあります。

「小便」はご法度

というわけで、買わずに逃げる意味の「小便」は、もともと江戸ことばですが、現在でも業界では普通に使われているようです。

道義的には、商取引上は一種の詐欺行為と見なされるので、「引っ掛ける」から「小便」としゃれたものでしょう。もとは、露天商などの符丁でした。「左少弁」は、どうも怪しいものです。

「小便」の由来

原話は、宝暦3年(1753)刊の『軽口福徳利』中の「しゆびん」、続いて同13年(1763)刊『軽口太平楽』中の「しゅびんの花生」があげられます。いずれも大坂ルーツですが、もっとも古い原型は、元禄7年(1694)、江戸で刊行の『正直咄大鑑』赤之巻四「買て少弁」中の「商人の物売にねをつけてまけたるとき、かわぬを江戸ことばにしやうべんのするといふ由来」という、長ったらしい題の小咄もみられます。

これは、左少弁道明卿という公家の家人が主命で江戸に下り、日本橋の骨董屋で散々値切ったあげく買わなかったことから、常識をわきまえないのを「少弁」→「しょうべん」と呼んだ由来話です。これが「小便=買わずに行く」と転化したわけでしょうが、ともかく現行のオチの部分の元となっています。

宝暦年間の二つの原話は田舎者と無筆の者をからかう内容です。

前者は、田舎者がしびんを十個も買うのでわけを尋ねると、「故郷でそばを打つので、つゆを入れる猪口にする」という笑話。

後者は、逆に客がしびんと気付いて詰問するので、花瓶だとだまそうとした亭主がしどろもどろになり「いえ、そんな名のあるものではありません」とごまかすもの。

どちらも「小便」のくだりはありませんが、後者の方が現行により近い内容です。

【語の読みと注】
日本橋筋 にっぽんばしすじ

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